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.国際  投稿日:2019/5/12

カンボジアで中国人犯罪急増 


大塚智彦(Pan Asia News 記者)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・カンボジアで中国人関与犯罪が増加も政府は静観。

・生活難から犯罪に走る中国人も多い。

・中国の経済進出の裏で、犯罪組織が進出。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=45713でお読みください。】

 

カンボジア国内で中国人が関連した犯罪が急増していることが地元警察当局の統計で明らかになった。外国人が加害者となった犯罪件数では中国人がトップを占めるとともに被害者数でも多く、中国人同士による犯罪やインターネットや電話を使ったオンラインギャンブルや詐欺、いわゆる振り込め詐欺の手口が特徴で、高級車を運転中の交通事故も目立っているという。

カンボジアは東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国内で最も中国との関係が深く、現フン・セン政権の積極策で中国企業による進出、投資が拡大傾向にあり、それとともにカンボジアで活動する中国人ビジネスマン、労働者、旅行者、そして不法滞在者が急増していることも背景にあるとして、治安当局は厳罰主義で犯罪摘発を今後も続け「中国人といえども例外視しない」との姿勢を強調している。

その一方で親中国を鮮明にしているフン・セン政権は「国家の治安を脅かすほど深刻な問題ではない」と中国人が関係した犯罪の急増を重要視していないという実態がある。

そうした政府の根本的な姿勢が相変わらず中国人のカンボジアにおける「やりたい放題」を助長しているともいえる事態となっており、中国は経済進出だけでなく「犯罪進出」までしているとの批判も噴出している。

▲写真 フン・セン首相(左) 出典:ロシア大統領府

 

■ 外国人犯罪の加害・被害者トップは中国人

カンボジア警察当局が5月9日に公表した報告によると、2018年12月20日から2019年3月19日までの期間、外国人関連犯罪で逮捕された外国人は341人で中国人が241人と断トツの1位、2位のベトナム人49人をはるかにしのいでいる。以下、タイ人26人、韓国人4人、米国人3人などとなっている。犯罪の種類は麻薬関連犯罪、人身売買、偽装結婚、不法滞在、交通事故、ネットや電話を使ったギャンブルや詐欺などとなっている。

また犯罪被害で犠牲となった外国人はやはり中国人が最多で98人、次いでフランス人の12人、以下英国人11人、ドイツ人9人、米国人7人などとなっている。犯罪被害は殺人などの事件、自殺、交通事故、麻薬関連の病死などとなっている。

首都のカンボジアやシアヌークビルなどの地方都市では毎日のように中国人がレンタカーした高級乗用車による交通事故が発生している。中国本土では自動車運転免許証を所持していないような運転初心者が同じ中国人の経営するレンタカー会社からパスポートや身分証明書だけで車を借り、不慣れな外国でのほとんど初心者のような運転で日本車のレクサスやドイツのベンツ、BMWなどの高級車を乗り回しては事故を起こしている

自損事故ならまだしもカンボジア人の通行人やバイク、乗用車と追突事故を起こして相手を死傷させるケースも多く、カンボジア警察は容赦なく逮捕しているが、後を絶たないのが現状という。逮捕された中国人運転手の写真はネットなどに公開されて糾弾されているが、被害者の大半は保険も適用されず、泣き寝入り状態なっているという。

▲写真 カンボジア警察 出典:Flickr; Damien @ Flickr

 

■ 元犯罪者、詐欺被害者の中国人も

2019年3月にシェムリアップで警察によるオンラインギャンブルの大規模摘発があり、中国人163人が逮捕されているほか、プノンペンではオンライン詐欺、いわゆる振り込め詐欺で28人の中国人が逮捕されるなどインターネット関連の中国人による犯罪も増えている

その一方でシアヌークビルでは白昼タクシー運転手を射殺して車を強奪した中国人2人が逮捕されるというような凶悪犯罪も増え、逮捕者が後を絶たない状況という。

こうした中国人犯罪者の急増に関してカンボジア警察関係者は地元プノンペン・ポスト紙に対して「カンボジアに入国してくる中国人の中には中国で犯罪歴のある元犯罪者が多く含まれており、そうした人物がカンボジアで犯罪を繰り返しているという現状がある」としたうえで「我々は法に従い摘発しており、中国人といえども容赦も例外視もしない」と厳しい姿勢を示している。

5月11日午前8時過ぎにプノンペンにある中国大使館前に女性1人を含む中国人25人が押しかける事態が起きた。25人は大使館に対して「中国人ブローカーに騙されてカンボジアに来た。地方都市のシアヌークビルに労働目的で派遣されたが現地に仕事はなく、持参した金がなくなり食料を買う金もない、なんとかしてほしい」と窮状を訴えた。

▲写真 プノンペンの街並み 出典:Wikimedia Commons; Dmitry A. Mottl

現地からの報道によれば、対応した中国大使館員は問題可決に向けた努力を約束した上で食料購入の費用を渡してシアヌークビルに戻るように説得したという。

このようにカンボジアに流入する中国人の中には「仕事がある」との甘言に騙されて入国した人も多く、詐欺の被害者が生活難から犯罪に走る傾向が高いとの見方もでており、「元犯罪者の流入」と並んで中国側の責任が問われている。

 

■ 政府の中国配慮の一方で犯罪組織進出

こうした状況に対しフン・セン政府のパイ・シパン報道官は地元紙などに「政府は問題解決に取り組んでいる。中国人の投資家が街中で銃撃戦をしている訳でなく、ごく一部の悪人による行為である。国の治安に脅威を与えるようなことはない」との姿勢を示しており、中国への配慮をにじませている。

カンボジア内務省はこうした中国人犯罪の急増に対応するために2018年9月に特別タスクフォースを創設、港湾都市で特に中国人が多数出入りするシアヌークビルで警察と協力して犯罪捜査に従事してきた。

そのタスクフォースの報告では「中国企業の進出や投資とともに中国本土の犯罪組織が進出してきており、カンボジア国内に拠点を作っている」と記されており、国による経済進出の裏で犯罪組織による組織的な進出、犯罪ネットワーク拡大への警戒が高まっている

 

トップ写真:カンボジア警察車両 出典:Wikimedia Commons; GuillaumeG


この記事を書いた人
大塚智彦Pan Asia News 記者

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。

 

大塚智彦

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