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.国際  投稿日:2019/6/4

カンボジア中国カジノ閉鎖へ


大塚智彦(Pan Asia News 記者)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・中国系ホテルの環境汚染や騒音問題等に遂に州当局が閉鎖命令。

・警察の「癒着」などから今後の強制閉鎖の実効性に疑問。

・独裁政権の親中対応にホテル閉鎖命令は一石を投じた。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=46136でお読み下さい。】

 

カンボジア南部の港湾都市シアヌークビルにある中国資本のホテル・カジノに対し現地シアヌークビル州当局が違法営業と環境汚染などを理由に営業停止処分を下し、5月24日に強制的に閉鎖されたことがわかった。

米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA」が伝えたもので、近年続く中国からの投資拡大にともなう中国人労働者や中国人観光客の急増が原因とされるシアヌークビルの「野放図な中国化」に歯止めがかかるものとして地元では注目されている。

シアヌークビルのフェリーターミナルからスピードボートで約40分の沖に浮かぶロンサレム島は美しい砂浜のビーチリゾートとして日本人も訪れる観光地として知られている。

島の一角にあり、海に面した「金鼎大酒店(Jin Ding Hotel)」はカジノも併設された中国資本「金鼎国際娯楽公司」が経営するホテル・カジノとして中国人観光客で賑わっていた。

▲写真 シアヌークビルのビーチ 出典:Pixabay; kolibri5

地元紙「プノンペン・ポスト」の2019年3月13日の報道によると、同ホテルは適正な営業許可を受けていない不法営業であることに加えてホテル内の汚水を適正に処理することなくそのまま海に垂れ流し、海水を汚染していることなどから州当局はホテルとカジノの営業停止、施設の閉鎖命令を出した。

この閉鎖命令は同公司のZhou Jianhua代表に対して3月22日までの営業停止を求めるものだったが、同公司はその後も営業を続け、命令を一切無視し続けていた。このため建物の強制撤去に向けた手続きも始まろうとしていたという。

 

■ 周辺住民から騒音被害訴え、発砲事件も

RFAなどの報道では、同ホテル・カジノでは汚水による砂浜や海水の環境汚染だけでなく、深夜から未明にかけて海岸で酒を飲んで騒ぐ中国人宿泊客による騒音被害が深刻で、周辺住民からの訴えが当局に相次いでいたという。さらに警備員が居丈高で実弾による威嚇発砲事件も起きるなど多くの問題を抱えていたとされる。

シアヌークビル州当局によれば、同ホテル・カジノに対し3月の営業停止命令が無視されたことから、さらにこれまで3回の警告を発して即時閉鎖を求めてきた。しかし、ホテル・カジノ側はこれに一切応じようとしなかったために警察と州当局による5月24日の強制的な閉鎖処分に踏み切ったという。

今後ホテル・カジノ側が営業を再開しようとすれば裁判に訴える必要があり、その場合も建物の強制撤去は可能になるというが、同公司の幹部と市当局さらに警察などとの「癒着」を指摘する声も出ており、強制閉鎖の実効性は疑問との見方をでている。

3月の営業停止命令後も5月まで営業を続けられたのは当局の汚職体質の反映とされているが市当局は「警告など法的手続きに従っていただけである。建物の強制撤去も遠隔地の島のために重機の搬入が難しかった」などと弁明していると伝えられている。

地元の環境団体はそうした指摘を踏まえた上で「汚水垂れ流しへの改善もなされずに数か月後にはホテルもカジノも再開される可能性も否定できない」と悲観的だ。

 

■ 中国人のギャンブル地区

親中国の立場で独裁政権を続けるフン・セン政権下でカンボジアの「中国化」は近年急速に進んでおり、首都プノンペンやシアヌークビルでは中国企業の進出に伴って流入した中国人労働者や観光客、そうした人々をあてこんだホテル、旅行会社、飲食店そしてカジノが林立している。特に港湾都市であるシアヌークビルには周辺地区を含めて少なくとも50軒の中国人による中国人向けのカジノが営業しており「中国人のギャンブル地区」とさえ称されている。

▲写真 フン・セン首相(左)出典:ロシア大統領府

中国人による犯罪、特に中国本土から流入してきた犯罪者集団による強行事件やインターネットを使ったオンラインカジノや詐欺事件なども激増している。

カンボジア警察当局が5月9日に発表した昨年12月から今年3月までの外国人関連犯罪で逮捕された外国人341人の中で中国人は241人と他の開国人犯罪者を抜いて断トツの最多となっている。512日アップの「カンボジアで中国人犯罪急増」参照)

こうした中国人による犯罪増加、カジノ乱立にロンサレム島やシアヌークビルのカンボジア人住民は不安や不満をつのらせていた。

しかし警察や行政当局が中国企業や中国人組織、ホテルやカジノの経営者から「賄賂」を受け取って「不法状態を見逃している」との見方も強く、「反中国感情」を押し殺して切歯扼腕する状態が続いていたとされる。

それだけに一時的措置の可能性もあるものの警察と州当局による今回の「金鼎大飯店」に対する強制措置について周辺で適法に営業しているホテルや住民からは歓迎されているという。

トップ写真:カジノ(イメージ)出典:pxhere


この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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