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.国際  投稿日:2019/10/22

フランスでヴェール論争再燃


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

仏地方議会で再びヴェール論争が起こった。

・仏は普遍主義と政教分離原則からムスリム女性のヴェール許容せず。

・ヴェール問題を移民政策やテロと結びつける議員も。分断の溝深し。

 

フランスではまた新たなヴェール論争(注1)がわき起こり、この10日ほど毎日のようにメディアで議論が行われていた。

フランスは、普遍主義(個別のもの、個別性・特殊性よりも、全てまたは多くに共通する事柄、普遍性を尊重・重視の立場)と、ライシテ(政教分離)の尊重から、ムスリムの女性の象徴的衣装ともいえるヴェールを許容できない立場を貫いてきた。そこで「コミュノタリズムを容認してはならない」ことがフランス政界の共通の認識とされ、法整備も行われてきたのだ。

フランスで使われるコミュノタリズムと言う言葉は、英語の「Communitarianism」やその訳語としての「共同体主義」とは違う。フランスでは、少数派の民族的・宗教的グループが文化的または政治的な独自性を主張し、その承認を社会全体に対して要求することを指し、どちらかと言うとネガティブな意味合いを持つ。

フランスはカトリック教会との長い苦闘をへて、やっとカトリック支配から逃れ、ライシテの原則を打ちたてることに成功した歴史があるだけに、宗教要素が強い主張を受け入れるわけにはいかないと考えるのは当然だ。

そのため、幾度となくムスリムの女性のヴェールに関する議論がなされてきた。しかしながら、エマニュエル・マクロン大統領就任後は、そこまで活発な議論が起こってはいなかったのだが、今回、再び盛り上がりを見せたのだ。

発端は、ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地域圏の議会で起こった出来事だ。10月11日、議会は通常通り行われていた。だが、そんないつもの風景の中、15人ほどの子供たちが教師と何人かの付き添いの親たちとともに、議会を見学するため室内に入った時にその事は起こった。国民連合(以降RN、旧党名は、国民戦線 FN)の一の人の議員が憤慨して声を上げたのだ。

「議長、お願いしたいことがあります。ライシテのもとに、今、室内に入ってきた付き添いの方にお願いしたい。そのイスラム教のヴェールを取るようにお願いしたい。…ここは、公共施設内です。我々は民主主義の圏内にいます。彼女の家、路上では好きな時にヴェールを付けることは可能です。しかし、ここではダメだ。今日はダメだ。」

ライシテを尊重するフランスでは、こういった言葉に賛同する人が多いのかと思われるこかもしれないが、反対に、多くの議員からブーイングの嵐が起こった。

「ファシストだ。」

「あなたは法律を知らないだけだわ。」

また、議長自身もその議員に対して憎しみを助長させる発言として抗議を行った。

ヴェールを取ることを要請された子供の付き添いに来ていた母親は、慰めにきた子供を抱きしめキスをした。その様子は象徴的な場面としてフランス中に拡散された。母親は大きなショックを受け、議会のトイレで泣きはらしたと言う。後日、「暴行」と「増悪の扇動」の容疑で、発言した議員に対し弁護士を通して訴えた。

法律の観点から言えば、フランスは初めてヴェール論争が起こった国であり、一般にヴェール禁止法と呼ばれる学校内でのヴェール着用の禁止に関する法律を2004年に制定した最初の国だ。また2010年には、路上や公共の場で顔を隠すことを禁止した。

しかしながら、議会は学校内ではない。しかも、ヴェールは顔のほとんどを隠すタイプではないため、公共の場であっても法律にはなんら違反していない。しかも、2013年には、最高裁判所としての役割を持つコンセイユ・デタにて、両親に対しては、学校内の職員に課している規則は適応しないと判断を下している。要するに、校外学習に付き添いに来ている親がヴェールをかぶって議会を見学に来てもなんの問題もないと言うことなのだ。

しかし、ジャン=ミシェル・ブランケール教育相は、こう述べる。

「校外学習の付き添いの親が、ヴェールをかぶることは違法ではないが、しかし、ヴェールは望ましいことではない。」

▲写真 ジャン=ミシェル・ブランケール教育相 出典:Flickr; MyScienceWork

この出来事は、本当に多くの論争を巻き起こした。各局の番組内でもヴェール着用について議論が展開され、出来事が起こってから5日で各局、LCI : 42件 CNEWS : 24件,BFMTV : 13件 France info 6件のかなり多くの議論が行われた。このことからも、最初の問題から勃発から30年たった現在でも、ヴェールに関する問題は、フランスの大きな関心事となっていることが見て取れる。

発端となった発言をした議員はツイッター上でも発言を続ける。

「私たちの共和国とライシテの原則のもとに、私は議長 @MarieGuiteDufay に学校の付き添い者に対してムスリムのヴェールを取り除いてもらうことを求めました。4人の警官が殺された後、我々はこの共同の挑発を容認できません

4人の警官が殺されたと言うのは、10月3日に起きたパリ・警視庁本部で起きた男性職員による同僚4人の殺害事件である。テロである可能性が疑われている。(参考 仏、警察内部にテロリスト? 投稿日:2019/10/12)この事件後、RNのマリーヌ・ルペン党首は無秩序な移民政策のせいで、イスラム原理主義が広がっていることを懸念していた。 

2020年3月に地方選を控え、移民政策とテロを結びつけて支持につなげる構えを見せたのだ。そして、今回のヴェール問題がおきた。この好機はルペン氏は逃すことなく考えを表明している。

▲写真 マリーヌ・ルペンRN党首 出典:Wikimedia Commons; Foto-AG Gymnasium Melle

ルペン氏は、「ヴェールはただの布切れではなく、イスラム過激化の印でた。…女性の自由はまだ確立されていないため、後退することもありえる。ゆえに、フランス社会は制限を設けるべきであり、校外学習の付き添いをする場合は、ヴェールは禁止するべきだ。」

エドゥアール・フィリップ首相は、「校外学習時に、付き添いをする場合にヴェールをかぶることは法律で禁止されておらず、また、今、その法律を作るべき時期でもない。」と、この論争に歯止めをかけたい意向を示している。

その翌日にエマニュエル・マクロン大統領は、「コミュノタリズムと、過激化と、ライシテを関連づけるべきではない。コミュノタリズムはテロリズムではない。コミュノタリズムに対して妥協はしないが、同じ国の人を刺激するべきではない。」とし、マクロン氏は、大統領就任演説時に述べたように、分断したフランスを一つにすることを目標としており、国が分断する方向に進むことは望んでないことを示した。

さらに「分断を招きかねない状態を作り出すのは、ルペン氏がやろうとしていることであるが、私たちがやろうとしていることではない。」と続けたのだ。

この結果、狂信的な盛り上がりは収まりつつあるが、それでも、議論はまだ完全に収集しているわけではない。ヴェールを外すことを要求された母親には同情の声も大きく集まったが、一方でフランスのPTAともいえるFCPEの調査では、66%が学校の付き添いの親はヴェールをかぶるべきではないという結果もでている。

この出来事は、ヴェールに関してみてもまだまだフランスは分断しており、マクロン大統領もだが、歴代の大統領がなんとか修復しようとしてきた問題ではあるが、溝はまだまだ深いことを改めて浮き彫りにしたともいえるだろう。

 

注1 ヴェールとは、ムスリム(イスラーム教徒)の女性が頭や身体を覆う布である。詳細には、単なるスカーフやビジャブなどいろいろな種類があるが、それらを称して日本語ではヴェールと訳されていることが多いため、ここではヴェールと呼ぶことにする。

 

【参考】

https://www.liberation.fr/amphtml/checknews/2019/10/17/une-semaine-sur-les-chaines-d-info-85-debats-sur-le-voile-286-invitations-et-0-femme-voilee_1758162

https://www.europe1.fr/politique/marine-le-pen-le-voile-nest-pas-un-bout-de-tissu-anodin-cest-un-marqueur-de-radicalite-3925985

https://www.lejdd.fr/Politique/jean-michel-blanquer-assume-et-repete-ses-propos-sur-le-voile-pas-souhaitable-notre-societe-3925790

https://www.lejdd.fr/Politique/voile-lors-des-sorties-scolaires-le-rappel-a-la-loi-dedouard-philippe-3925678

http://repository.lib.tottori-u.ac.jp/files/public/0/104/20180622160033388892/rs022_09.pdf

 

 

https://www.lemonde.fr/societe/article/2013/12/24/meres-voilees-que-dit-le-conseil-d-etat_4339497_3224.html

Les Français et la polémique sur l’affiche de la FCPE

https://www.bfmtv.com/societe/polemique-sur-le-voile-rassemblement-a-dijon-devant-le-conseil-regional-1790024.html

トップ写真:イメージ 出典:flickr:rana ossama


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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