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.社会  投稿日:2020/7/1

都の行財政改革に挑む元熊本県副知事 東京都長期ビジョンを読み解く!【特別編】


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・小野たいすけ候補、ビジネス・政治・行政経験豊富なエリート。

・新時代の行財政改革を提案、政治手法も明確。

・IR誘致や江戸城天守の再建は今の時代に合っているのか?

特別編の第2弾、今回は小野たいすけ候補を見ていきたいと思う。東大、アクセンチュア、政治家秘書、副知事と輝かしい経歴で成果を残した新時代型のエリート。ビジネス経験、政治経験、行政経験を豊富に持つ、筆者が政治家に求める条件を兼ね備えている。「自身のがん患者としての経験」と明言されているなど、苦労もしているようだ。しかも、46歳とかなり若い。「東京を切り開く」を掲げた小野候補の政策を見ていこう。

1 小野氏の政策(HP)

HP

選挙公報

に明らかになっている。

2 素晴らしい点

素晴らしい点は、第一に行財政改革である。

 ・知事報酬・期末手当の50%カットだけでなく、退職金のカットにも着手

 ・外郭団体の整理を行い、天下り先の仕組みを一掃

 ・公文書については、重要性の高いものは原則として廃棄をせず、ブロックチェーン管理に取り組むなど永久保存のルール

 ・若洲ゴルフリンクスの夜間開放を行い、運営を民間に委託するなど、都が所有する公有財産の有効活用

 ・印鑑とFAXは順次廃止し、公文書はすべてデジタル化をするなど、都庁内のITと労働環境を刷新し、生産性と都民向けサービスを向上

などなど、新時代の行財政改革を提案している。旧来型の行政改革に先進技術の応用をドッキングした提案の数々があげられている。

第二に問題解決思考である。例えば、東京の一極集中については

 ・満員電車解消を実現するための、隣県をも巻き込んだサテライト都市整備構想

 ・東京が持つヒト・情報・資金をセットにして地方への循環を促し、真の意味での地方創生を促進

 ・多極分散社会を実現し、日本全体に活力をめぐらせることで、東京都の持続可能性を同時に高める

など東京一極集中への問題意識と問題解決思考がうかがえる。単なる東京一極集中について言及すると東京の利益がなくなる的な局所的・守旧的な視点はそこにはない。

▲写真 小野たいすけ候補 出典:小野たいすけ 東京都知事候補【公式】@taisukeono

第三に科学的手法を重視している点である。コロナ対策についても、データに基づく科学的な方法の提案をしているし、「エビデンス」を重視している。ダイナミック・プライシング(時間別価格設定)の導入や自動運転技術などについても、その成果を検証する視点を常に持っている。さすがアクセンチュア出身である。

第四に、政治手法を明確にしていることだ。公約にこういう視点を各候補者は、めったにいない。

なかでも、

 ・異なる意見や考えを排除せず傾聴・議論し、一人ひとりの知恵を力に!

 ・議員からの質問に対する、議会での誠実な答弁の徹底

 ・現場主義を貫き、都民一人ひとりの現場まで出向き、思いを伺う

 ・職員を信頼し、失敗をおそれず都民の幸福のために挑戦する組織文化をつくり、その能力を最大限引き出す

 ・徹底した情報公開を実施するとともに、後世に責任を果たせる公文書保管の仕組みを構築し、確実に運用する

まさに経営コンサルとしてのナレッジをもとに、現場で実践してきた人、そこでの失敗から学んで成長してきた人だけが考えられる知見といえよう。

3 疑問点

しかし、疑問点は2点ある。

(1)IR

選挙公報にも「IRを積極的に誘致」とある。IR、カジノ誘致を今さら?と思うのだ。横浜での問題を知っているのでしょうか?と聞きたい。横浜市の事例を見れば、そのエビデンスのなさが次々明らかになっている。科学的に検証すれば、その条件設定の陥穽や財政への貢献度のまやかしも見えてくるはずなのだが。IRについては新型コロナウイルス対策にも問題であるし、そもそも時代にあっていない。「オンラインカジノ」で十分でしょう。おそらく、これは党の方からの要求なのだろうと推察される。

(2)江戸城再建

江戸城天守の再建を行い、東京の魅力を高めることで観光客を呼び込み、賑わいを取り戻します」と主張し今後都民の皆様と対話しながら充実していくそうだが、そこに疑問がある。

第一に今は天皇陛下のお住まいになっていること。第二に、莫大なコスト。第三に、周りの景観。周辺の建物の解体や東京の高さ規制を強化して初めて江戸城の価値がわかる。首相官邸と同様、周りの高い建物から見下す江戸城というのもなんとも。第四に、城という安易な観光名所づくりで、さらなるオーバーツーリズムを招きかねない。

歴史的には、江戸幕府の拠点に移ることで統治者が変わったことを内外に明治政府が知らしめた意味もあっただろう。その意味で大日本帝国の後継政府ともいえる日本政府の反感を買わないか、大丈夫かと心配してしまう。

▲写真 江戸城趾・天守台跡 出典:フォト蔵

4 評価

評価結果とその理由は以下になる。(☆は1~3で評価)

問題意識   ☆☆☆

【理由】公務だけでなくプライベートでの自身の体験と実感ベースの問題意識を持っている。熊本地震の経験、がん患者としての想いが反映されている。

政策としての基礎条件   ☆☆

【理由】エビデンスの重視、集団教育のあり方や部活動のあり方を検証するなどそもそもの見直しを提起するなど、政策マネジメントの基礎が充分理解されている。

政策の具体性   ☆☆☆

【理由】具体的かつ先進的である。

政策の網羅性   ☆

【理由】網羅されていない部分もある。同性パートナーシップ都条例への理解など、リベラルな政策もあるものの、HPに掲載されている部分では全体的な分量が少ない。

実行可能性   ☆☆☆

【理由】問題解決型であり、現代的。熊本での実績は知らないのですが。

以上、感情を殺して文章を書きました。上記あくまで私の意見ですのでご参考に。繰り返しますが、特定個人を応援する目的で記載していませんので悪しからず。

トップ写真:小野たいすけ候補 出典:小野たいすけ 東京都知事候補【公式】@taisukeono


この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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