[宮家邦彦]<南シナ海で中国を念頭においた訓練>アメリカ・フィリピン合同軍事演習「バリカタン」に注目[外交・安保カレンダー(2014年5月5-11日)]
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
前回書いたとおり、安倍首相は4月29日から5月8日まで欧州を歴訪中。5日はパリを訪問しオランド大統領と会談。警戒監視に使う無人潜水機など防衛装備品の共同開発を進めるため協定締結交渉開始で合意したという。また、 原子力エネルギー技術での協力強化や経済担当閣僚の対話促進についても確認したそうだ。
なるほど日仏で安保協力ということか?10年前に日仏が防衛装備品共同開発をするなど、一体誰が想像しただろう。日本の安全保障=日米安保という時代はいずれ終わる。それは日米安保の重要性が低下するのではなく、むしろ日米を中心に関係国が、東アジアでより多角的な安全保障の枠組みを模索する方向に進むのだろう。
中国との関係を考えれば、今の時点で東アジアにNATOのような多国間の安全保障条約機構を作ることはほぼ不可能だ。しかし、そのことはこの地域で多国間の安全保障枠組み作りまでが不可能だという意味ではない。将来はまずフィリピンと豪州がこれに加わると考えてよいだろう。問題は韓国が如何に対応するかだと思う。
その意味でも筆者は5月5日から16日まで行われる米比合同演習を重視する。正確には米軍とフィリピン軍の定期合同演習で「バリカタン」と呼ばれる。先週米比間では新たな軍事協定が結ばれたばかり。南シナ海で中国を念頭に置いた海洋防衛や災害支援を柱とする訓練であり、フィリピン各地で実施されるという。
規模は米比両国で5500人程度、これにオーストラリア軍も少人数だが加わる。米軍は在沖縄海兵隊を含む約3000人だから、一個MEU(海兵隊遠征部隊)が中心だろう。報道によれば、今回は昨年同様、日本の自衛隊や中国、韓国、豪州など各国軍を招いた机上演習が計画されていたが、直前に中止されたそうだ。何故だろうか?
5日には自民党の高村副総裁が中国共産党No.3の全人代委員長と会談した。これが日中関係改善の突破口になると良いのだが。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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