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.政治  投稿日:2021/10/28

立憲民主党枝野幸男代表 各政党政策・リーダー分析 その1


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

立憲民主党、支持層のウイングを広げ、行政刷新・行革についても踏み込んだ。

・一方、政策からは問題への処方箋は見つからない。

・声診断では、信頼とカリスマの色が出ているが、調整力に課題も。

 

各党政策・リーダー分析。自民党は総裁選で行ったので、そのほかの党を中心に進める。第一回は、立憲民主党と枝野幸男氏。

変えよう。」をテーマに政権交代を視野に入れている立憲民主党。

■ 支持層のウイングを広げた

政策集では、消費税減税、年収1000万円以下の所得税減税など「分配」を進めている。将来不安の解決から始めるという点はまさに日本がやらないといけない課題を示している。

特に「富裕層や超大企業への優遇税制の是正で所得再分配を強化」とまで政策集で明確にしたところは凄い。批判などに慎重な日本社会の「空気」を壊したと言えるほど画期的なことだと思う。消費税についても減税するという方針をようやく決断をしたこと、所得税の最高税率を引き上げること、これまでの高所得者層への「優遇」を是正する決意を約束したことなどは、政治的決断としては素晴らしい。1000万円以下の年収の方という「ライン」に対して、支持者からは「高すぎる」との批判を受けることは想定されたが、あえて、支持層のウイングを広げることを進めた点が凄い。

そして、やはり、リベラル色である。DVや性犯罪被害、家族破綻、貧困、障がい、社会的孤立など、さまざまな困難を抱えた「社会的弱者」の利害を代弁する政党として、明確に支援する方針と具体策を提示しているのだ。

【出典】立憲民主党HPより

■ 行政改革もついてもしっかり言っている!

行政刷新・行革についても意外にも(失礼)いいところをついている。詳細を見ると、やはり政権を担った経験がある政治家がいる党の強みを感じる。安倍元政権のある意味、形がい化した「政治システム」へのアンチテーゼである。官邸官僚たちが跋扈してしまった結果、機能が低下した各省庁も安心できる面もあるだろう。

【政策集より】

〇担当事務事業の予算を適正に削減した部署や公務員個人が評価される仕組みを導入します。

〇行政機関等の事務・事業の公正さに対する国民の信頼を得られるよう、「政官接触記録の作成等に関す る法律」を制定します。

〇国会に国民から期待された行政監視を実現するため、少数会派であっても関係者を国会に証人とし て出席させ、証言を求める事ができるよう証人喚問のあり方を含む調査機能の強化等を実施します

○政府による違憲・違法の解釈変更などを防ぐため、新たな解釈をつくる際に歴代政府が国会に答弁し ている「法令解釈の考え方(ルール)」への適合性の文書作成および国会への提出義務を課します。

〇特別会計を含む予算・決算の透明性を高め、税金の使い道を確認して行政の無駄を排除します。

〇租税特別措置等については、「租特透明化法」による国会報告に基づき、効果が不明なもの、役割を 終えたもの等は廃止し、真に必要なものは恒久措置へ切り替えます。

他にもいろいろ素晴らしい点があり、まさにそれは「政権交代可能」な政策であると言える。

■ どのように変えるか?

しかし、課題もある。第一に、「変えよう。」がテーマであるが、「どのように(HOW)」変えるかが全く見えてこない。政策案は焼き回しだし、どのように既得権益を動かすのか、「共存共栄策」が見えない。

また「支え合う日本」というが、そもそも「支え合えない」社会になっている現実が踏まえられていない。人間関係に煩わされ、各種ハラスメントの影響を受けて「孤独」になりたい人が多い一方、権威主義が跋扈し、ごみ出しですら村の掟を強いる根深い「村社会」がある。この構造。

根深い問題があるので「支え合う」のなら、どういう仕組みが可能なのか。他人のために動く、優しい人の良心やボランティア精神だけに期待するのは不十分で、エッセンシャルワーカーの生活保障だけではなかなか難しい。ひきこもりや孤独を感じる都市生活者にとって「支え合い」の場が重要で、どう場を機能させるかが大事である。そこについて、政策からは問題への処方箋は見つからない。

■ 経済をどうするか?

課題の第二は、経済についてである。

【政策集より】

[経済対策]

〇税制等の活用で、企業の内部留保が働き手の賃金や人的資本の向上への投資に回るよう促します。

〇金融所得への公正な課税の仕組みの導入、所得税の最高税率引き上げ、法人税の税率の多段階化 (累進性強化)、相続税の改革等により税制の所得再分配機能を強化し、格差是正を図ります。

【出典】政策集

「分配」を徹底するということ、円安で大企業が救われ、一般庶民が割を食ったという問題意識は素晴らしい。しかし、掲げているのは「一億総中流社会」である。一億総中流社会は、かってのノスタルジー、神話に過ぎない。すでに1970年代には崩れていたのにも関わらず、その標語が社会の現状認識をだいぶ遅らせた面もあることがわかっていない。

これでは「失われた30年」の問題を解決できない。平均賃金が韓国以下、1人当たりGDPがOECDでも下位に位置するという事実がだんだんと国民の間でも広がってきた今、分配か成長か、という議論の対立もあるようだが、そうではないはずだ。分配も重要だし、成長も重要である。分配をして、同時に成長もしないと日本経済は本当に厳しい状況に陥っている。

日本企業の国際競争力低下、生産性の低さ、組織体質、企業の少なさ、デジタル化の遅れ・・・・企業の側にもなんとか頑張ってもらうよう成長してもらわないといけない。経済政策、政治ができる役割についての内容が不足している。

それ以外にもあるが大きな点はこの2点である。

■ 枝野幸男氏の人間力分析

さて、リーダーの人間力分析に話を向けよう。党首の枝野幸男さんは1964年5月31日生まれの57歳。栃木県宇都宮市出身。県立宇都宮高校弁論大会で優勝するなど、早くから弁論のうまさを見せていた模様。

サラリーマン家庭に生まれたが、サラリーマンだった父は勤め先の倒産で失業も経験し、その後、小さな町工場を営むことになったそう。中学・高校時代は合唱部に所属。東北大学法学部に進学すると、憲法を中心に学び、弁護士に(司法修習43期、第二東京弁護士会所属)。

1992年、枝野さんが28歳の時、日本新党の公募に応募し、合格。地盤もカンバンもない選挙区であったが、初当選。その後、衆議院議員を9期、民主党政権では立憲民主党代表(初代)。内閣府特命担当大臣、内閣官房長官、経済産業大臣などを歴任。初代、立憲民主党代表(初代)となった。選挙での敗北も経験している。

「和をもって尊しとなす」という日本社会の精神を大事にしていて、自由を大事にして多様な価値観を認めているのはもちろん、自由放任な自己責任論ではなくて、お互いに支え合うことを大事にすることがリベラルであり、保守でもあるとも語る。外国人参政権への慎重論にも「保守」の思想はうかがえる。

枝野幸男氏の声診断

一般社団法人日本声診断協会、株式会社ターンアラウンド研究所のコンサルタントの中島由美子氏に今回も登場いただいた。

声診断結果では、信頼とカリスマの色が出ているという。まさに、「政治家になるために生まれてきたといっても過言ではない」とのこと。

【出典】中島由美子氏による声診断

課題としては、「調整力の課題があります。これは自分の思いが強いがために、和する、組織を広げる、組織を調整するということが手薄になってしまうのかもしれません」とのこと。もう一つは、「これまでの政治の常識、価値観を超えることの課題です。野党として対決するには、自民党と戦う新しさやインパクトが足りないように思います」との指摘であった。

■ 国民と約束

国民投票やDXなど、あたらしい政治の形を提示してもらえていない。そこにあるのは正義とリベラルな理念の色濃い政策リストである。

筆者の専門領域で言うと、すでに行われていること、目新しいことを書いているに過ぎない内容が多いし、問題解決には程遠い面もある。そこは、もうちょっと政策担当者の頑張りを期待したい(上から目線ですみません)。

また、「野党は批判ばかり」という自民党からの批判については正々堂々と反論している。ただし、野党で「対案は作った」「提案をしている」といっても、政治は法律の場以外にも、国会の場以外にもできるはずだ。つまり何を言いたいかというと「社会活動」「ソーシャル・イノベーション活動」ができるはず。政治家にはそれだけのリソース(資金や人材)があるのだから、何かモデル事業に取り組み、その成果を見せてほしい。そうすれば「実現可能性」「政権担当能力」も説得的に語れるようになるだろう。わがNPO日本公共利益研究所はいつでも協力する。

しかし、枝野さんの党首としての活動は期待が持てる。枝野さんのHPには、国民との約束が載っているから紹介しよう。枝野さんの法律家としての志、「まっとうな政治」を目指す理想はこの国民と約束に表れている。

国民との約束

1.     生活の現場から暮らしを立て直します

2.     1日も早く原発ゼロへ

3.     個人の権利を尊重し、ともに支え合う社会を実現します。

4.     徹底して行政の情報を公開します

5.     立憲主義を回復させます

【出典】HPより

日本の社会を変える思想はとても素晴らしい。個人の権利、徹底情報開示、民主主義を再生する旗手として頑張ってほしい。枝野さんと立憲民主党に期待したい。

トップ写真:枝野幸男立憲民主党代表 出典:立憲民主党




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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