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.国際  投稿日:2022/8/6

金正恩、復活した斬首作戦に怯える


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・北朝鮮外務省韓米の対北朝鮮軍事圧力は高まり、北は「いつ第2の朝鮮戦争に拡大するかは」分からないと述べる。

・それに加え、韓米は斬首作戦を復活させた。

・北朝鮮は異常な警戒心を示し、金正恩氏の動線を隠す動くが顕著になっている。

 

北朝鮮の外務省は7月26日、ホームページに「戦雲をもたらす好戦狂の群れ」と題した文を掲載し、「韓米が休む間もなく各種名目の戦争演習を強行している」とし「いつ第2の朝鮮戦争に拡大するかは誰にも予測できない」との主張を行った。そして「地域に米軍が存在する限り、朝鮮半島の平和保障は絶対に実現しない」と対決姿勢を露わにした。

こうした露骨な挑発姿勢は、金正恩総書記が7月27日の「停戦(北朝鮮では戦勝)記念」で「アメリカ帝国主義とは思想でもって、武装でもってあくまで立ち向かわなければない」「尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権と彼の軍隊は、わが武力の前に全滅するだろう」などと演説したことで公式化された。

 しかしこうした強気の姿勢の裏で、金正恩は強まる韓米の軍事圧力と復活した「斬首作戦」に異常な警戒心を高めている。

 

1、強まる韓米の軍事圧力

韓国軍関係者は7月31日、韓米日はミサイル発射など軍事挑発を繰り返す北朝鮮に対応するため、米ハワイ沖海上にて8月1~14日の間、弾道ミサイルへの対応能力と連合作戦遂行能力強化の「パシフィック・ドラゴン」訓練に入ると明らかにした。この訓練には米軍、韓国海軍に加え日本の自衛隊を始め、オーストラリア、カナダの軍も参加している。

また尹錫悦政権発足後、初めて実施される下半期韓米合同軍事演習も、有事に備える非常訓練「乙支演習」と統合して、名称をUFS(乙支フリーダムシールド)と変更し8月2日から9月1日まで実施している。

そして、北朝鮮が韓国を核で攻撃する場合、米国本土に対する核挑発と見なして戦略核兵器など「拡大抑止(extended deterrence)」戦

力を動員して対抗することなどを議論する韓米高位級拡大抑止戦略協議体(EDSCG)も9月に再稼働されることとなった。

EDSCGでは、原子力空母打撃群、原子力潜水艦など米戦略兵器を韓(朝鮮)半島に展開する時期や規模、方式なども具体的に議論される。EDSCGは2018年1月の第2回会議以降、文在寅政権下では開かれておらず、4年8ヵ月ぶりの再開となる。

 

2、復活した「斬首作戦」

 韓米は大規模軍事訓練を復活させるだけでなく、文在寅時代に中止させられていた北朝鮮指導部を除去する「斬首作戦」も復活させた。米カリフォルニア州フォートアーウィン基地内の「ナショナル訓練センター(NTC)」では、米韓特殊部隊による共同訓練が6月14日から7月9日まで行われた。「一般歩兵ではなく、特殊部隊が訓練に参加したのは今回が初めて」と韓国軍関係者は説明した。

こうした訓練強化に伴い、韓国では在韓米軍の攻撃ヘリコプター「アパッチ」が、北朝鮮との軍事境界線のすぐ南にあるロドリゲス実弾射撃複合施設で2019年以来となる実弾射撃訓練を再び実施していることが分かった。在韓米軍はツイッターで「昼夜を問わず」訓練を行っていることを明らかにしている。

 

3、金正恩、「斬首作戦」に異常な警戒心

 米韓軍の「斬首作戦」復活に伴い、北朝鮮では金正恩の動線を隠す動きが再び顕著となり警護が強化されている。

7月2日から6日まで行われた朝鮮労働党各級党委員会組織部党生活指導部門活動家の特別講習会では、異例にも事前報道を一切行わず、講習会が終わった後に報道した。また北朝鮮の国家保衛省は7月10日、「首脳部保衛事業体系」を強化するための指示を各地方保衛局に下達した。

韓国デイリーNKの報道(7月19日)によると、保衛省は今回の指令伝達に先立ち、安倍元首相が7月8日、参議院選挙距離遊勢中に襲撃され死亡したという事実を伝え、「日が経つにつれて激しくなる敵の卑劣な反共和国陰謀策動から敬愛する武力総司令官同志の身辺安全をあらゆる面から保障することにすべての力を総動員せよ」 と指示したという。

続けて7月10日から12月末までを「反スパイ闘争期間」と定め、すべての力と力量を集中して革命の首脳部を狙って策動するスパイ、不純異色分子をすべて摘発、逮捕、粛清する 事業に総力を傾けることを強調した。

そればかりか公開活動の際にも身辺警護を強化したことが分かった。今年の「停戦(戦勝)記念式典」の様子を見ると、警護員の姿をほとんど見せなかったこれまでの公開活動警護とは異なり、金正恩のそばで警護員が警護している姿が確認された。朝鮮戦争に参戦した老兵たちの前を通る際にも屈強な体格の警護員4~5人が緊張した表情で警護に当たっていた。警護員は金正恩が老兵たちと手を握る際も別の参加者が近づかないよう金正恩を囲んだ。昨年の老兵大会ではこうした警護員の姿はなかった。

 折しも現地時間7月31日午前6時ごろ、アフガニスタンの首都カブールで、米軍が国際テロ組織「アル・カーイダ」の指導者アイマン・ザワヒリ容疑者(71)を無人機のミサイル(ヘルフアイヤーと見られる)で殺害した。こうした状況もあり、いま金正恩の「斬首作戦」に対する警戒心はこれまでになく高まっているようだ。

トップ写真:北朝鮮に対抗して行われた米韓共同軍事演習   2022年05月25日

出典:Photo by South Korean Defense Ministry via Getty Images

 

 




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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