中国軍兵士5000人が駐屯 南シナ海
大塚智彦(フリージャーナリスト)
「大塚智彦の東南アジア万華鏡」
【まとめ】
・南シナ海全体で駐留する中国軍兵士ら約5000人に達していると一部中国メディア伝える。
・中国政府は国際法違反との声を無視し、島嶼や環礁を埋め立て、軍事基地化を進めている。
・共産党大会を控え、中国は対外的に批判浴びる行為を自制するのではないか。
南シナ海の島嶼や環礁を中国が埋め立てるなどして一方的に空港や港湾などの軍事施設を建設している南シナ海全体で駐留する中国軍兵士らが約5000人に達していることを一部中国メディアが伝えたことがこのほど明らかになった。
これは中国国営テレビ系列のCGTNが報じたものを米系「ブナ―ル・ニュース」が転電する形で伝えた。それによると中国海軍の病院船「YOUHAO」がこのほど180日間の作戦行動を終えて広東省に帰港した。
同病院船は広東省湛江市に拠点を置く中国海軍南海艦隊所属で舷側には大きく赤十字マークが施され、排水量4000トン、船内には100床の病床を備え、3つの手術室も備えた本格的な「洋上の大型軍病院」といわれている。
同病院船は180日をかけて南シナ海の中国が領有権を主張して軍事基地化している島嶼や環礁を周回して、そこに駐屯する兵士たちの病気治療や健康チェックなどを行ってきた。同病院船の乗り組んでいる医師や医療スタッフは湛江市にある海軍病院から派遣されているという。
今回の作戦行動では南シナ海にある西沙諸島、南沙諸島の13の拠点を巡り「約5000人に医療サービスを提供した」と伝えた。こうしたことから南シナ海の中国の軍事拠点に兵士約5000人が駐留しているという数字が明らかになったというのだ。
米政府は南シナ海に展開する中国人民解放軍の兵士に関しては約1万人規模との見解を示してきたが、中国側の報道を信用する限り今回の報道ではそこまで多くはないことが明らかになった。
こうした数字には駐留する将官、兵士と少数の一般住民も含まれている模様だが、これまで明らかにされてきたことはなく、初めての数字とみられている。
■ 国際法違反の軍事基地化
中国は南シナ海の約90%に渡る広大な海域を自国の海洋権益が及ぶとする「九段線」内と一方的に位置付け、西沙諸島や南沙諸島に存在する130の島嶼や環礁を「中国領土」と宣言して、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、ベトナムなどとの間で領有権問題が生じている。
フィリピン政府が2014年に南シナ海での中国の一方的な動きについてオランダ・ハーグにある常設仲裁裁判所に訴えを起こした。その結果常設仲裁裁判所は2016年に「中国が主張する九段線とその周辺海域への権利に「国際法上の根拠はなく、国際法に違反する」との裁定を下した。
しかし中国政府は一貫してその裁定を無視してその後も島嶼や環礁を埋め立て、造成して軍事基地化を一方的に進めて現在に至っている。米インド・太平洋艦隊などによるとミスチノフ礁、スビ礁、ファイアリー・クロス礁の3カ所は滑走路、レーダー施設、航空機用のハンガー、関連軍事施設が完備した巨大人口島で米側などは「ビッグ3」と呼んでいる。
■ 次々と新行政区を創設、既成事実化
中国は2012年にミスチノフ礁や中沙諸島スカボロー礁の周辺を、三沙市とする新たな行政区をこれも一方的に設けた。さらに2020年には南シナ海の西沙、中沙諸島を含む西沙区と南沙諸島の南沙区からなる地方行政区を新設した。南沙区の中心はフェアリー・クロス礁に置かれた。
三沙市の中心であるウッディ島は2700メートルの滑走路を備えた空軍基地も建設されており、完全な軍事拠点となっている。三沙市全体には約1800人の民間人、軍人が居住しているとされる。
■ 中国共産党大会控えて行動自制か
こうした中国による一方的な実効支配と軍事基地化が進む南シナ海だが、フィリピンでは10月初め、スカボロー礁周辺海域でフィリピン船籍の漁船40隻が操業しているのが確認された。漁船はフィリピン沿岸警備艇2隻が警戒、監視する中での操業となった。
スカボロー礁は中国が実効支配する環礁だが、フィリピン・ルソン島の西方約230キロに位置し自国の排他的経済水域(EEZ)内にあるとしてフィリピンは領有権を主張している。
こうしたフィリピン漁船の操業にはこれまで中国海警局船舶などが出動して、妨害などの示威行動に出るケースが多かったが今回は特に問題がなかったようだ。
これは習近平国家主席の続投を議論する5年に一度の中国共産党大会が10月16日から北京で開催されることから、対外的に批判を浴びる行為を極力自制するのではないか、との見方も出ている。
トップ写真 出典:Photo by Ezra Acayan/Getty Images
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この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト
1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。