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.社会  投稿日:2025/4/23

震災から14年、福島の復興と教育の課題:旧帝大合格者数から見える地域格差


上昌広(医療ガバナンス研究所理事長)

「上昌弘と福島県浜通り便り」

【まとめ】

・福島の復興を語る上で、重要な柱の一つは教育。

・しかし福島には国から配分される高等教育予算が乏しく、理系教育は弱い。

・地域で高度教育機関を育成する必要があるだろう。

 

 

東日本大震災から14年が経過した。福島の復興を語る上で、重要な柱の一つは教育である。特に高等教育は、新たな産業を創出し、国内外の競争環境の中で福島を前進させる原動力となる。復興を担うのは、高度な知識と技術を備えた人材にほかならない。

 

毎年3月、マスコミは大学受験ネタで盛り上がる。有名大学の合格体験記は、子育て中の読者の興味をそそるのだろう。一部の媒体は主要大学の高校別合格者数を掲載する。医療ガバナンス研究所では、このデータを用いて、福島を含む地域の「教育レベル」について議論している。本稿で、ご紹介したい。

 

まずは、旧七帝大から議論しよう。旧七帝大とは、明治以降に設立された東京、京都、東北、九州、北海道、大阪、名古屋の7つの帝国大学を指す。いずれも当時の最高学府で、多くの人材を輩出した。現在も旧帝大として知られ、特に理系教育と研究において日本をリードし、国際的にも高い評価を受けている。

 

例えば、ノーベル賞受賞者だ。これまでに、25人が、日本の大学を卒業し、自然科学系のノーベル賞を受賞しているが、20人は旧七帝大の卒業者だ。ちなみに、文学賞、平和賞を個人として受賞した3人も旧帝大の卒業生である。日本の学術研究で、旧七帝大が果たしてきた役割は圧倒的だ。

 

ところが、旧七帝大への入学者には、顕著な地域格差が存在する。図1は、旧七帝大の合格者数を都道府県別に、18歳人口1万人あたりで示したものである。

 

(図1)

    

ここで示しているのは合格者の居住地ではなく、出身高校の所在地であり、たとえば千葉県から東京都内の高校に通うケースなどは東京都に分類されるため、解釈には注意が必要だ。

 

図1から明らかなように、旧七帝大の合格者は地域的に偏在している。関東・甲信越では東京都を除き少なく、代わりに中部、近畿、北海道で多く見られる。都道府県別では、奈良(442人)、石川(338人)、愛知(330人)、福岡(319人)、北海道(297人)が上位を占める。上位10県のうち9県が愛知以西である。一方、下位10県のうち、7つが東日本勢だ。地域偏在の実態がうかがえる。

 

では、福島はどうか。89人で45位だ。沖縄、島根についで少ない。例年このあたりの順位である。

 

福島県に存在する国立大学は福島大学だけだ。1949年に旧制福島師範学校・福島青年師範学校・福島経済専門学校を母体として設立された。当初は、学芸学部と経済学部の2学部体制で発足し、理工系の学部ができるのは、東日本大震災後の2017年まで待たねばならない。

現在、共生システム理工学類と食農学類が存在するが、予算規模が大きい医学部は存在しない。歴史的に福島には、国から配分される高等教育予算が乏しく、理系教育は弱い。

 

では、最難関とされる東京大学はどうだろう。最も多いのは、東京で116人、ついで奈良(74人)、神奈川(65人)、兵庫(43人)、富山(40人)、鹿児島(39人)と続く。福島の合格者は7人で42位だ。これも例年どおりの順位である。

 

(図2)

 

図2は東日本大震災後の福島からの東大合格者の推移を示す。2022年のデータが欠落しているが、6~19人で推移している。

 

東京大学への合格者の分布は図3のようになる。首都圏および奈良、兵庫、鹿児島など私立の有名進学校が存在する県からの合格者が多い。富山は古くからの教育県だ。富山高校をはじめ、公立の有名進学校から東京大学に合格している。

(図3)

 

このような事実を知ると、東京大学には全国から学生が集まっているように見えるが、別の側面もある。それは、関東地方の出身者が合格者の62%を占めることだ。

 

これは、九州大学(62%)、大阪大学(55%)と同レベルだ。京都大学は48%とやや低いが、同大学は名古屋を中心とした中部地方からの入学者も多い。中部地方を合計すれば66%と、同レベルになる。東京大学も、他の旧帝大同様、「関東の地方大学」という側面がある。

 

東京大学と東北地方の関係は、京都大学と中部地方の関係とは若干異なる。東北地方から東京大学に合格する学生の割合(2%)が低いのだ。九州(7%)、中四国(5%)にも及ばない。

 

東京と東北地方は近い。新幹線「はやぶさ」を用いれば、仙台駅から東京駅までの所要時間は約90分だ。高度成長期、東北地方から東京には、「金の卵」として多くの若者が流入した。その数は200万人を超えるという推定もある。それなのに東京大学への進学者が少ないことは異様だ。

 

 京都大学はどうだろうか。合格者の分布を図4に示す。

(図4)

北海道、宮城、東京、福岡など例外はあるものの、近畿地方を中心に合格者が分布し、そこからの距離が遠くなるほど、その数は減少する。分布はほぼ同心円状だ。このあたり、東京大学とはずいぶん違う。

 

では、福島はどうか。合格者数は5人で、41位だ。ただ、京都大学への進学者が少ないのは、福島に限った話ではない。東北地方からの進学者は、そもそも少ない。京都大学合格者に占める東北地方出身者の割合は、わずかに1.1%で、すべての地方の中で最も少ない。東北地方6県で、京都大学進学者が最も多い宮城ですら、下から8位だ。下位8県のうち20 × 20、6県を東北地方が占める。これは歴史的に、この地域と近畿地方の交流が少なかったことを反映しているのであろう。

 

東北地方には東北大学がある。東北地方の優秀な高校生は東北大学を目指して勉強する。福島も例外ではない。

では、福島からの東北大学への進学実績はどうだろうか。合格者は63人で、全国で7位だ。

 

(図5)

ただ、この結果は素直には喜べない。東北地方6県では最下位で、栃木県にも劣るからだ(図5)。福島は、東京大学、京都大学、東北大学のいずれにおいても、東北地方でもっとも進学実績が悪い。

 

東北地方の合格者の分布は図6のようになる。東北地方と関東地方からの進学者が多い。

(図6)

ただ、関東地方の人口が多いので、合格者の実数では関東地方が41%で、東北地方(33%)よりも多い。地元出身者が過半数を占めないのが東北大学の特徴だ。

 

東北大学は、東北地方の優秀な高校生が目指す名門大学だ。ところが、関東圏の高等教育機関が不足しているため、関東圏の高校生が進学する。この結果、大学を卒業後、関東に戻ってしまう。この地域から、「東京一極集中」という批判の声があがるのもやむをえない。

 

教育格差は人材格差を生み出し、人材格差は地域差を固定する。このような格差は、明治維新以来の長きにわたる歴史を反映している。特効薬はない。どうすればいいのか。

 

迂遠かもしれないが、地域で高度教育機関を育成するしかない。米国のシリコンバレーは、スタンフォード大学が起点となり多くの技術系企業を輩出し、世界有数の産業集積地へと発展した好例だ。次回、福島における高度教育機関の発展について論じたい。

 

 

 

トップ写真)東京大学 安田講堂

出典)mizoula/Getty Images Plus

 

 




この記事を書いた人
上昌広医療ガバナンス研究所 理事長

1968年生まれ。兵庫県出身。灘中学校・高等学校を経て、1993年(平成5年)東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院で内科研修の後、1995年(平成7年)から東京都立駒込病院血液内科医員。1999年(平成11年)、東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。専門は血液・腫瘍内科学、真菌感染症学、メディカルネットワーク論、医療ガバナンス論。東京大学医科学研究所特任教授、帝京大学医療情報システム研究センター客員教授。2016年3月東京大学医科学研究所退任、医療ガバナンス研究所設立、理事長就任。

上昌広

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