北の軍事挑発に一喜一憂は禁物
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2017#41(2017年10月9-15日)
【まとめ】
・10月10日の朝鮮労働党創建記念日における「軍事的挑発」は見送られた模様。
・トランプ大統領が「イランは2015年の核合意を順守していない」旨判断する可能性あり、緊張高まる。
・米・トルコ関係が悪化。NATOのメンバーであり、米国の対中東政策の要の国でもあり、関係修復を期待。
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今週の関心は3つ。巷では10月10日の朝鮮労働党創建記念日に合わせ北朝鮮が新たな「軍事的挑発」を行う可能性が取り沙汰されている。だが、この種の「オオカミ少年」で一喜一憂するのはもう止めた方が良い。仮に何かを発射するとしても、北朝鮮が米軍の攻撃を誘発するような「挑発」を行うとは思えない。重要なのは開発計画であり、創建記念日のために実験する訳ではないのだ。
二つ目は東京都知事の国政復帰の可能性だが、こちらの方が可能性は低そうだ。それにしても選挙に出馬される方々は大変だ。衆議院解散以降、新旧政党の合従連衡が猫の目のように変わった。だが、今週は少し落ち着いてきたから、何が一過性の風で、何が実体なのかが見えてくるはず。皆さまご苦労様です。
三番目は今週米大統領が「イランは2015年の核合意を順守していない」旨判断する可能性だ。米行政府は90日ごとにイランの合意順守について議会に通報する義務を負っているが、報道によれば、トランプ氏は核合意が「米国の国益」にとって「不可欠」とは認めないらしい。最悪、対イラン制裁が復活するのだが、詳細は来週書くことにしよう。
という訳で、今週は北朝鮮の動きをもう少し占ってみたい。核実験が前回成功だったとすれば、今回はやらないかもしれない。前回実験の技術的検証が必要だと思うからだ。だとすれば、今回はSLBMの実験か、それともICBM「火星14号」の通常発射で今回は8000キロから一万キロの射程を狙うのか。
北朝鮮がいずれ後者を試みることだけは間違いない。問題はどの方向に打つかだ。8000キロの飛行距離を狙うのは結構勇気がいる。あまり飛ばすと米本土に届いてしまうからだ。ロシア筋は北朝鮮が米西海岸に届くICBMの発射を準備しているというが、下手に米国領域に落下すれば米国は反撃しかねない。
同様のことはグアム島方面についても言える。グアムの領海内に落としただけで、下手をすると朝鮮戦争パート2が始まる。その時は北朝鮮が崩壊する時だから、金正恩も無理はしないはずだ。このゲーム、各チームが合理的に行動して誤算が生じない限り、戦争は起きないはずなのだが。怖いのは誤算である。
〇 欧州・ロシア
9日から英国のEU離脱に関する交渉が再開される。10日にはスペイン・カタルーニャ自治州の大統領が住民投票に関する報告を行うという。ここで独立宣言しても、どうにもならないと思うのだが。10日は他にも重要なイベントがある。トルコ大統領がセルビアを訪問、仏では公務員がストをやり、イタリアでは難民の増大が議論される。
写真)カタルーニャの市民によるデモ
Photo by Lohen11 – Josep Renalias
11日には英国のEU離脱後のキプロスにある英軍基地の取り扱いについて両国で協議が行われる。また15日にはオーストリアで議会の総選挙がある。先日のドイツ総選挙では右派系ナショナリスト政党が第三党に躍り出た。これがオーストリアにも飛び火するようなら、欧州で再びポピュリズムへの懸念が再燃するだろう。
〇 東アジア・大洋州
9日には韓国で休日が終わり、10日は台湾で国慶日、北朝鮮では労働党創建記念日がある。同日は日本では総選挙の公示日で、投票は10月22日となる。15日には中国でカザフスタンの天然ガスの輸入が始まる一方、米空母ロナルド・レーガンが韓国海軍と合同演習を行う。何事も起きなければ良いのだが。
写真)韓国海軍駆逐艦と合同演習する米海軍空母ロナルド・レーガン 2015年10月
Photo by MC3 Nathan Burke
〇 南北アメリカ
9日からカナダ首相が米国とメキシコを訪問する。NAFTAは一体どうなるのだろうか。それにしても、ワシントンの「統治能力」が悪化しているのに、その変化が余りに日常的で、漸進的で、しかも人々がそのショックに慣れ始めている。このままだとワシントンの劣化がpoint of no returnを越えるかもしれぬ。
〇 中東・アフリカ
最近米・トルコ関係が悪化している。トルコ治安当局が在イスタンブール米国総領事館の現地職員を逮捕したことへの報復なのか、8日、在トルコ米大使館は米国一時滞在に必要な非移民ビザのトルコ国内での発給を無期限で停止すると発表した。在米トルコ大使館も同日、同様の措置をとったという。
今のような両国関係の悪化を一体誰が予想しただろうか。先週も書いた通り、最近のエルドアンの欧米離れは顕著だが、トルコはNATOのメンバーであり、米国の対中東政策の要の国だ。このまま放置すれば、米国にとって、また欧州にとっても失うものが大き過ぎる。手遅れにならないうちに、関係修復をしておかないと心配だ。
写真)トルコ エルドアン大統領 ロシア訪問 2017年5月3日
出典)ロシア大統領府HP
〇 インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ画像:
写真)北朝鮮の弾道ミサイル「火星14号」
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。