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.国際  投稿日:2019/2/15

フィリピン厳戒 新たなテロ計画


大塚智彦(Pan Asia News 記者)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・フィリピン南部に中東などからテロリスト流入、警戒強化。

・「アブサヤフ」教会で自爆テロ。ドゥテルテ大統領掃討作戦開始。

・漁民に偽装するなど密入国手口巧妙化。海上警備強化急務。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44145でお読みください。】

 

フィリピンの情報当局関係者が最近、フィリピン南部のスールー州やミンダナオ島などに中東、その他の外国からテロリストが潜入して新たなテロを計画している可能性があると指摘していることが明らかになった。テロの危険が高まっているとして、南部地域での警戒が強化されているという。

これはフィリピン南部のミンダナオ自治地域(ARMM)の首長を務めるハタマン氏が2月8日に明らかにしたもので、地元紙「フィリピン・スター」が伝えた。

▲図 フィリピン・スールー州とミンダナオ島 出典:Eugene Alvin Villar(Wikimedia Commons)

ハタマン知事によるとエドアルド・アニョ内務・地方自治相とデルフィン・ロレンザーナ国防相との会談でフィリピン情報当局が得た最新情報として共有されたものという。ハタマン知事は「地域の住民にとっても重要なこうしたテロ関連の情報は周知されるべきである」として外国人テロリスト潜入テロ危険情報を明らかにした理由を地元紙に説明したという。

▲写真 エドアルド・アニョ内務・地方自治相 出典:Wikimedia Commons

 

■ 教会爆弾テロの背後にインドネシア人

フィリピンでは1月27日午前、南部スールー州のホロ市のキリスト教会「アワーレディ・オブ・マウント・カルメル教会」の聖堂内でミサの最中に爆弾が爆発、約1分半後に教会の入り口付近で2度目の爆発が置き、警備に当たっていた兵士ら20人以上が死亡、100人以上が負傷する爆弾テロ事件が起きている。

事件はその後の捜査などからフィリピン警察ではインドネシア人男女のカップルによる犯行で、自爆テロとの見方を強め犯行の全容解明に努めている。

 

■ 犯行は「アブサヤフ」の分派

爆破直後に中東のテロ組織「イスラム国(IS)」系の通信社が犯行声明をだしたが、事件当時の周辺の監視カメラや目撃者証言、さらに情報当局の内偵捜査などから直接の犯行はフィリピン南部を拠点に活動するイスラム過激組織「アブサヤフ」によるものと断定、2月6日までに5人を逮捕している。1月30日には軍と警察合同部隊がスールー州でメンバーの1人を発見、殺害した。

5人はいずれも「アブサヤフ」の分派である「アジャンアジャン」という組織のメンバーで爆弾テロ実行犯のインドネシア人と直前まで行動を共にしていたとみている。

これまでの捜査では、実行犯のインドネシア人男女は犯行の約1週間前の1月21日にスールー諸島のバシラン島付近からフィリピンに潜入し、逮捕された5人の容疑者の1人であるカマ・パエ容疑者がエスコートしてホロ市まで来たという。その後2人はスールー州ホロ島のパティクルで「アジャンアジャン」の主要メンバーと落ち合い、爆弾テロ計画の詳細を謀議して犯行に及んだとの見方が強まっている。

 

■ 教会テロ使用の爆弾とアブサヤフの関係

ドゥテルテ大統領は教会爆弾テロの発生後に「アブサヤフ」に対する全面戦争を宣言してフィリピン国軍と警察部隊に徹底的な掃討作戦を指示している。

▲写真 アブサヤフによるテロ現場に花を手向ける当時ダバオ市長のドゥテルテ氏(2009年3月4日ダバオ国際空港)出典:Keith Bacongco flickr

これを受けて治安組織は現在も戒厳令が続いているミンダナオ島周辺に部隊を増派して治安維持と「アブサヤフ」殲滅作戦に当たっているが、1月の教会爆弾テロを受けて特に犯行実行グループの「アジャンアジャン」のメンバー発見を重点的に実施している状況という。

これまでの作戦で構成員は減少しているものの「アブサヤフ」にはなお300~400人の武装メンバーが所属し、治安部隊との戦闘を繰り返している。

そうした中でもたらされた新たな外国人テロリストの潜入とテロ計画の可能性は地元住民に衝撃を与えにわかに緊張が高まっている。特に海外のテロリストと「アブサヤフ」が合流して新たなテロ作戦を実行する可能性があることから、警戒を強めて、外国人テロリストの追跡を実施している。

治安当局が特にアブサヤフの掃討作戦を強化している背景には教会爆破事件で使用された爆弾がこれまでの鑑識活動などから「パイプ爆弾」による自爆テロとみられ、同型の爆弾がこれまでも「アブサヤフ」から押収されているためという。

2016年5月に「アブサヤフ」が占拠していた拠点の奪還作戦で、拠点から発見押収されたのが同じパイプ爆弾だった。この時の作戦では「アブサヤフ」幹部指導者の1人、ウスタズ・アッバス・アラム容疑者とマレーシア人の爆弾製造専門家委モハマド・ナジブ容疑者が戦闘で死亡したことが確認されている。

▲写真 フィリピン海軍巡視艇 BRP Apolinario Mabini(PS 36)出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Mark R. Alvarez

フィリピン南部のミンダナオ島、ホロ島、バシラン島周辺ではインドネシアやマレーシアから海路で不法入国を試みる外国人テロリストを水際で阻止しようとフィリピン海軍などが警戒を強化しているが、漁民に偽装したり、夜陰に紛れたりと巧妙な手口での密入国が続いており、海上警備の強化も急務となっている。

トップ写真:フィリピン・ドゥテルテ大統領 出典:Rody Duterte facebook


この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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