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.国際  投稿日:2020/10/19

タイ脱走ウイグル族捜索の背景


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

タイ、ウイグル族強制送還の背景に中国政府からの働きかけか。

・タイへの脱走は北朝鮮人の「亡命脱出ルート」と重なる。

・ウイグル人の強制送還は人権上問題ありと、タイ政府に厳しい批判。

 

タイの警察、入国管理局などがミャンマーとの国境地帯で入管に収容中に脱走した、ラオスから違法入国したウイグル族の2人を捜索していることがわかった。

ウイグル族はタイ当局によって中国本土に強制送還されると中国国内の強制収容所に送られて強制労働や拷問などの過酷な運命が待っているとされ、強制送還を逃れるためにタイの入管施設から脱走して国境を超えてミャンマーに向かっているものとみられている。

タイ国内には中国から逃れてきたウイグル族がラオスやカンボジアなどを経由して多く入国しており、タイ当局は「発見次第収監して、中国へ強制送還」のスタンスを続けていることから、人権団体やウイグル族組織からは「人権上の配慮で少なくとも強制送還だけは回避するべきだ」と要求している。

しかしタイ政府のこうした「強制送還の方針」の背景には在タイ中国大使館を通じた中国政府からの強い働きかけがあるとして、タイ政府への批判も高まっている。

■ 2度目の脱走でミャンマー目指す

タイの地元メディアは報道で10月16日にタイ警察、入国管理局、国境警備隊などが合同でタイ西部ミャンマーと国境を接するターク県メーソート郡の国境地帯で大規模な捜索が実施していることを伝えた。

捜索は国境付近にある竹林やトウモロコシ畑などを警察の探知犬やドローンまでも使用して陸と空から続けられている。探しているのは41歳と29歳のウイグル族男性2人で、タイ東北部のノーンカイ県でラオス国境を超えてタイに不法入国したとして現地の入管施設に拘留されていたという。

この2人はそのノーンカイの入管施設から脱走して逃走、21日後に再拘束されてメーソートの入管施設に移送されていたという。

そのメーソートの入管施設を10月14日の夜明け前に再び脱走した2人は、国境沿いを逃走、潜伏しておりミャンマーへの入国を狙っているとして国境警備隊も動員しての捜索が続いている。

地元マスコミは、警察からの情報として2人は収監されていた入管施設の鉄格子を洗剤で腐食させて、切断を容易にした上で切断、そこから外部に脱走したとみられる、とその手口を伝えている。

■ 脱北者ルートと重なる経路

ラオスを経由して中国からタイ北部へ不法入国するルートはかつて北朝鮮から脱出して中国、ラオスからタイに入り、第3国への亡命を求める北朝鮮人の「亡命脱出ルート」として知られていた。

現在は中国国内での警戒が厳しくなり、このルートでラオス経由タイへ脱出する北朝鮮人は激減したといわれているものの、今回のケースで同じようなルートを中国政府による弾圧、人権侵害の深刻化が伝えられるウイグル族が利用している可能性が浮上している。

中国からラオス国境、ラオスからタイ国境を越える際には不法越境、脱出を手引きする組織があるとされ、こうした組織がウイグル人の中国脱出、ラオス経由でのタイ入国にも関与している可能性が高いとみられている。

今回脱走しているウイグル族2人は約50人のタイに入国したウイグル族の仲間とされ、50人はラオスとの国境を超えた際にタイ当局に拘束されて現在タイ国内の4か所の入管施設に分散拘留されているという。

■ 中国への強制送還で国際的批判浴びる

タイへは2014年以来約350人のウイグル族が中国北西部の新疆ウイグル自治区から逃れてラオスなどを経由して入国、拘束された。

タイ政府は中国の求めに応じる形で2015年7月この350人のウイグル人のうち109人を中国に強制送還したことがある。

タイの首都バンコク中心部の観光地でもあり、タイ人の信仰場所でもある「エラワン祠」などで同年8月に連続爆弾テロが発生し、観光客など20人が死亡し、容疑者としてウイグル族の2人が逮捕された。このテロはタイ政府による強制送還措置に対するウイグル族の「報復」とみられていた。

▲写真 エラワン神社バンコク2018で祈る人々 出典:Wikimedia Commons; Chainwit.

その後国際的な人権団体やウイグル族支援組織などから「中国に強制送還されたウイグル族には強制収容所送りや過酷な処罰が待っており人権上問題である」との厳しい批判をタイ政府は浴びる結果となったが、「報復の爆弾テロ」があったことからタイ政府はじめタイ国内でのウイグル人への同情論は盛り上がらなかった経緯がある。

中国からの経済援助などで基本的に親中の立場をとる現在のプラユット政権は、不法入国して拘束したウイグル人の中国強制送還の方針を依然として堅持しているといわれ、現在拘束されているウイグル人の間では「強制送還の危険」が共有され、それが今回2人のウイグル人が脱走を繰り返す背景にあるのは間違いないと人権団体などは指摘している。

トップ写真:ウイグル人弾圧への抗議 出典:Flickr; langkawi


この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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