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.政治  投稿日:2022/7/3

参議院選挙の本当の「争点」⑥ 産業構造改革


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・多くの日本企業は、「日本的ビジネス習慣」に囚われ続けている実態がある。

・与党自民党の公約には明確な産業構造改革に関する記載がない。

・日本はドイツの労働市場改革を見習い、雇用の流動化を図る必要がある。

 

 「オワコン経済」

 なぜ、日本はこんなになってしまったのだろうか。

 前回、経済学者の野口悠紀雄さんの言葉を紹介した。「円安は麻薬のようなものだ。本来行われるべき技術開発と産業構造の転換をせずに、雇用を維持することができる。そうした政策を20年間飲み続けて、とうとう足腰が立たなくなったのが、現在の日本だ」(プレジデント誌)という。円安によって進まなかった(とされる)産業構造改革について考えたい。

■ 情報通信で「勝った」アメリカ

 アメリカと日本を比較しよう。アメリカは、2010年代は情報・通信業がけん引した。

▲図 【出典】経済産業省「第四次産業革命に向けた産業構造の現状と課題について」

 他方、日本は製造業や建設業がけん引した。後者は東京都心の大型都市開発、五輪での建設、東北大震災復興事業などを考えれば理解できるだろう。

▲図 【出典】経済産業省「第四次産業革命に向けた産業構造の現状と課題について」

 GAFAMなどアメリカは成功。日本は?というと、コロナ接触アプリ「COCOA(ココア)」の不具合が4カ月以上放置された問題を皆さん覚えているだろうか?中抜き、再委託・・・・そんな感じでデジタル産業でも建設事業でのゼネコンの下請け構造さながらに、元請けの大手Slerを頂点に、二次・三次請け・・・というピラミッド構造がそこにはあった。イノベーションの象徴でもある情報・通信業が旧態依然とした「日本的ビジネス習慣」に閉じ込められてしまったら、そりゃアメリカには勝てない。

■ 昭和の成功体験を忘れられない?ビジネス文化

 平成に入っても、昭和以来の仕事のやり方、ビジネス文化は多くの人の心に巣食うっていたのかもしれない。

・個性や多様性より、集団主義的思考

・創造性や個人の尊厳より、会社への忠誠重視、「社畜」、権威主義への隷従

・合理性より、過去の成功体験・やり方・思考に固執

・デジタルでの効率化や成果より、リスク回避・問題を起こさないことや完璧主義的手続き重視

 別に誰が悪いというわけではなく、それは昭和の強烈な成功体験の裏返しだったのだろう。大きく変わる前に、政府に助けを求め、助成金や補助金で凌いでいた産業もあった。

 地方創生事業で、多くの広告代理店が群がってきて、成果も残さず利益を持ち去っていく姿を目の前にして唖然としたことを思い出す。2010年代の特徴は、補助金や助成金で旧態依然とした産業が延命・生き残ってしまったことに尽きると思う。筆者の意見に疑問を持つなら、以下のサイトで企業名を検索してみて欲しい。どういう業界の、どういう企業が利益を得たかがわかるだろう。

☆構想日本作成 JUDGIT!

 さらに、租税特別措置の適用実態調査の結果(財務省)を見てみればびっくりする。租税特別措置とは、企業や業界が当分の間、税金を軽減し、若しくは免除してもらえる措置のこと。詳細な企業名は公開されていないが、多くの企業が「特例」を受けていたことがわかる。ちなみに、今回の公約にて、維新の会は租税特別措置の廃止を、立憲民主党「租特透明化法」を強化、効果が不明なもの、役割を終えたもの等は廃止することを謳っている。

■ 日本経済の今

 現状はどうなのかを見てみよう。

▲グラフ【出典】内閣府HP、就業者数の変化率(2005年度~2015年度)

 内閣府の2005~15年度の職種別の就業者数の変化率では、製造業では就業者減少、サービス業では増加、なかでも、医療、不動産、情報通信等で就業者数が増加した。

▲グラフ【出典】内閣府HP、就業者数の変化率(2005年度~2015年度)

 職業で見ると、一般事務員、軽作業員が求職超過、つまり仕事を求める人が求人数より多い状況である。

■ 各党の政策から

 各党の公約を見ると、第四次産業革命、IT/デジタル産業、環境産業への積極投資などを謳っている。

 中でも、立憲民主党は、「産業競争力強化の観点から、製鉄産業などエネルギー多消費産業、脱炭素への対応が求められる自動車産業等へ、産業構造変革を促す財政支援を一層強化します。大きな投資が見込まれる設備更新については、前倒しで実施できるよう各企業の成長戦略を後押しする支援を行います」と明記している。

 維新の会は、「すべての産業分野において、競争政策3点セットとして①供給者から消費者優先、②新規参入規制の撤廃・規制緩和、③敗者の破綻処理が行われ再チャレンジが可能な社会づくりを実現します」とそのポリシーを明記している。

 与党自民党には明確な産業構造改革に関連する記載は見られなかった。

■ ドイツから学べ!

 与党の支持団体を考えると期待はできないことも確かである。だからこそ、ドイツの政策に見習ってもらいたい。シュレーダー改革、特に「アジェンダ2010」というものがある。ドイツでは「労働市場改革法」を2003年12月に可決し、解雇制限などの規制緩和を図った。高い労働コスト抑制、労働市場の柔軟性を高めた結果、短期的には失業者が500万人を超えたが、長期的には、雇用の流動性が高まって労働市場が拡大し失業者は減った。

ポイントは

・解雇の場合に補償金解決制度を導入

・失業給付期間の短期化

などである。ドイツ経済の今を考えると、結局、労働者の過度な権利保護が企業の競争力を失わせているという考え方が正しかったということが証明されたわけだ。

■ 産業構造改革

 前回記載したように、日本に必要なのは雇用流動化を実行することだろう。アトキンソンさんが言う最低賃金の意味を我々は改めて考えるべきだろう。最低賃金を1500円にあげれば経営者は人を雇用するよりDXやロボットへの代替にインセンティブが向く。そして、最低賃金レベルで働いている労働者は雇用を万が一、一時的に失ったとしても、各党が掲げる「人への投資」のプログラムでリスクリングや市場価値の高い、自分の興味に近い仕事や能力にみあったスキルを身に着けるための職業訓練を受けて、生産性の高い、賃金を高めにもらえる、もしくは賃金は低くてもキャリアが見通せる、自分自身のやりがいを感じられる仕事に移れる。

 単なる「労働」から「仕事」へ、「サラリーマン・ウーマン」から「ビジネスパーソン」へ、やらされる仕事からやりがいのある仕事へ、社畜から思考して自立する人財へ、と仕事観も変わり、キャリアも見出せるようになる。それこそ産業構造改革で皆がハッピーになる政策といえないか。

 あとは政治的決断、行動だろう。

​​​​

(続く。、⑤)

トップ写真:輸出されるスバルの車(2021年12月16日、川崎市)

出典:Photo by Carl Court/Getty Images

 

 




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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