無料会員募集中
.国際  投稿日:2022/9/23

比大統領 国連演説で南シナ海に言及


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

 

【まとめ】

・マルコス大統領は国連総会で演説し、南シナ海問題に言及、中国の武力行使を牽制。

・「意見の相違は国際海洋法条約によって平和的手段で解決されるべき」との姿勢を強調、米中双方に自制を求めた。

・マルコス大統領の国連演説に中国、中国と領有権問題のある各国首脳がどういう姿勢を示すか注目。

 

 フィリピンのフェルディナンド・マルコス新大統領は9月20日、米ニューヨークで開かれている第77回国連総会で演説し、中国が一方的に海洋権益を主張してフィリピンなどとの間で領有権問題が生じている南シナ海問題に言及し、平和的手段で解決されるべきだとのこれまでの主張を繰り返し、中国の武力行使を牽制した。

 国連総会では20日から一般討論演説が始まり、各国首脳が演壇に立って演説をおこな

った。圧倒的多数の得票を得て大統領に選ばれて6月30日に大統領に就任したマルコス大統領は初めて国連の場での演説に立ち、世界経済の再活性化や、食糧安全保障などの地球的課題にフィリピンが前向きかつ積極的に関与していく方針を示した。

 その上で南シナ海問題では「意見の相違は国際法の規定に従い平和的手段で解決されるべきだ」としてあくまで話し合いによる解決を求めていく姿勢を確認した。直接の名指しをさけたものの当然のことながら南シナ海問題は中国を念頭にしたものであることは国連各国も理解している。

 

★増加する中国の示威的行動

 南シナ海では中国が一方的に宣言して自国の海洋権益を主張している「九段線」が南シナ海の大半に及び、島嶼や環礁の領有権を巡ってフィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイとの間で領有権問題が生じている。

 2016年にオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が「九段線は国際法上の法的根拠がなく、国際海洋法に違反する」と中国を断罪したものの、中国政府はこの裁定を受け入れず無視する姿勢を一貫して続けている。

 そうした中でフェアリ-・クロス礁、ジョンソン・サウス礁、ヒューズ礁、ガベン礁、スビ礁など中国は次々と埋め立てて、その上に建造物や滑走路を整備、軍を駐屯させるなど軍事拠点化を着々と進めて実効支配の既成事実を構築した。

 さらに最近は海警局船舶や海軍艦艇による海域のパトロールが強化され、フィリピン軍が座礁させた軍艦に駐留しているアユンギン礁周辺で食糧補給に向かった船舶に進路妨害や放水で妨害するなどの実力行使も目立つようになってきた。

 

★台湾を巡る米中緊張にも懸念

 こうした現状を踏まえてマルコス大統領は演説の中で「意見の相違は国際法とりわけ国際海洋法条約によって平和的手段で解決されるべきだ」との姿勢を改めて強調した。

 さらにマルコス大統領は中国を念頭にして「アジアでは戦略的、イデオロギー的緊張が高まっており、これまで築き上げてきた平和と安定が脅かされている」との見解を示した。

 これは台湾を巡って中国と米の対立激化への懸念も含まれているとの見方が有力で、米中双方に自制を求めた形となった。

 

★在米フィリピン人とも交流

 マルコス大統領は9月18日から24日の予定で訪米しているが、18日米東部ニュー

ジャージー州の空港到着直後には在米フィリピン人コミュニティーとの集会に出席した。

 熱狂的に迎えられたマルコス大統領は「皆さんの誰もが大使である」と述べてフィリピンと米国の交流の懸け橋になって欲しいと述べた。

 フィリピン人のメイドや肉体労働者(OFW)は世界各地で就労しており、その数は約1000万人といわれている。

 このOFWのフィリピン人が祖国の家族などに送金する金額は約300億ドル以上といわれフィリピン経済の一翼を担っている。

 こうしたことからフィリピン大統領の外遊では当該国で働くフィリピン人との交流が恒例となっている。

 マルコス大統領の国連演説に中国、そして中国と領有権問題のある各国首脳がどう反応し、どういう姿勢を示すかが注目されている。

トップ写真:ニューヨークの国連本部で開催された第77回国連総会(UNGA)で演説するフィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領。2022年9月20日

出典:Photo by Anna Moneymaker/Getty Images

 




この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."