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.社会  投稿日:2022/7/8

参議院選挙の本当の「争点」⑪:デジタル化・DX


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・新型コロナウイルス感染拡大を機に、日本でもデジタル化が大幅に進展している。

・政党の公約にもデジタル技術に関する文言が見られ始めている。

・デジタル庁が設置した「アイデアボックス」に寄せられた意見は全て実現する意気込みを持つべきだ。

 

auの回線トラブルが先週の週末の日本を騒がせた。ネットワークやデジタル技術が社会のインフラであることを再認識させられたところだ。前回の参議院議員選挙から3年。新型コロナウイルスによるテレワークの導入や給付金の申請などでのデジタル化の遅れが目立つ3年といっても過言ではない。欧米や中国に大幅に遅れて、ようやく日本社会でもデジタル化、デジタル・イノベーションが一気に進み始めた。国でもデジタル庁がスタートし、デジタル化の動きは加速化している

デジタル競争力の現状

これまでのIT政策を整理しておこう。まとめておくと以下になる。

▲表 【出典】筆者作成

地方自治体でも、デジタル・イノベーション計画、DX計画などが策定されるようになってきた。特に、住民が利用し、広まっているものとして、コミュニケーションアプリの「LINE」がある。まさに生活インフラとなってしまった感がある。各種申請、税金の支払い、チャットでのQ&A、施設の予約、はては、パブリック・コメントまでに使用されるようになった。

▲表 【出典】筆者作成

この文脈をもとに、その実行を進めようとする岸田政権の「デジタル田園都市国家構想」は素晴らしいことは確かだ

しかし現実の数字は・・・となると心もとない。IMD(International Institute for Management Development)国際競争力、「Technological Infrastructure」、主に

・Investment in telecommunications

・Mobile broadband subscribers 4G & 5G market

・Mobile telephone costs

・Communications technology

・Secure internet servers

・Internet users

といった指標で評価されているが、そこでは「42位」である。

▲表 【出典】IMD(International Institute for Management Development)国際競争力ブックレット2022

デジタル関係の公約

各党の公約を見てみよう。やっとというべきか、「デジタル」の文言が頻出している。自民党は様々な政策領域において、「デジタルの活用」が奪われている。公明党も「デジタルで拓く豊かな地域社会」と掲げている。

具体例だと

・自動車検査証の電子化、手数料等のキャッシュレス納付などのデジタル化を推進

・デジタル技術を活用した独居高齢者の見守り推進

・シニア世代に優しい「デジタルヘルス」の積極活用による幸齢社会の達成、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)の一層の推進、デジタルデバイドの解消

・航空レーザ計測等による森林資源情報等のデジタル化

・「刑事手続における情報通信技術の活用」に対応して更生保護業務のデジタル化を促進し、より効果的な再犯防止対策を充実

・デジタル分野を中心に人材教育及び就労支援を行う団体に対して、PFS(Pay For Success:教育訓練・支援を受けた人の収入増加額に応じた成果連動型民間委託契約方式)の仕組みによる資金助成を行い、就労に困難を抱える人や低所得者層におけるデジタル人材育成と所得向上を図ります

・目視規制や実地検査、書面手続、対面講習などのアナログ規制をデジタル技術に置き換える取り組みを加速化し、デジタル化による規制改革・行政改革を、官民連携で進めることにより、国民の安全・安心や暮らしの利便性向上、事業活動の円滑化・生産性向上を図ります。

と言ったところが目新しい。

中でも公明党は「アフィリエイト広告やステルスマーケティングなど「デジタル広告表示における不当表示」への厳格な対応策とともに、消費生活相談におけるデジタル活用を推進します。」というデジタルがもたらす社会の負の側面に焦点を当てるところはさすがである。私も某「かっこいい経営者」の虚像に騙されたりしたが、デジタル・リテラシーの必要性は本当に重要だろう。

残念ながら、与党の方が、デジタル政策において圧倒的に質・量とも優れているという状況だ。野党には頑張ってほしい。

とはいえ、立憲民主党は「巨大デジタルプラットフォーム企業に対し、個人情報保護やセキュリティ確保の観点から、適切な規制を行います。」という世界的なビッグテック規制の流れについて言及している。

▲図 【出典】国民民主党公約

国民民主党と維新の会はともにブロックチェーンについて主張している。維新の会は「公文書の管理・保存については総デジタル化を原則とし、ブロックチェーン技術等の導入により徹底した書き換え・改ざん防止の仕組みを構築します。」と記載、立憲民主党は「請願のデジタル化を含め、国民が行政や立法の意思決定プロセスに直接参加できる「シビックテック」など、デジタル民主主義を推進します。」と明記している。公文書管理、民主主義の統治の仕組み、民主主義を機能させるために必要なところに、デジタル技術も活用するという点に着目しているところはさすがであり、もっと、もっと推進できるはずである。

そもそも遅れているという自覚を!

事業創造大学院大学国際公共政策研究所でDXを研究している専門家として言わせてもらうと、ドバイをはじめ世界のスマートシティには完全に負けている。デジタル技術は導入が目的ではない、よりよい成果を上げるための手段である意識がどれほど政策担当者にあるのだろうか。

完璧主義、ルール主義を改めて、国民が「めんどくさい」と思うこと・ものは徹底的に効率化をするべきだし、ロボットの活用、メタバース、スマート・シティ、IoT技術、ドローン、空飛ぶ車、NFTなどなど、いまだに規制が多いし投資も、まだまだ実験的な取り組みも少ない。深センのような都市をどこかに特区制度で作るなどしないと完全に遅れてしまう。

デジタル庁では「アイデアボックス」(株式会社自動処理が開発)の取り組みが行われている。このアイデアボックス、社会の窓口・目安箱であり、様々な意見が寄せられている。

▲図 【出典】デジタル庁「アイデアボックス」

▲写真 【出典】アイデアボックスの展覧

ここに寄せられたアイデアはすべて実現するくらいの勢いで実行しないと、日本は経済的にもヤバい。特に野党、与党に負けない調査と提案を期待したい。

(つづく。

トップ写真:コミュニケーションアプリが入ったスマホの画面(2018年6月29日・香港) 出典:Photo by S3studio/Getty Images




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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