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.社会  投稿日:2020/4/29

人類と感染症12 コロナ後のキーワード「地球共存」


出町譲(経済ジャーナリスト・作家)

【まとめ】

・渡り鳥で地球規模で拡散。世界的流行の多くは中国南部起源か。

・感染猛威の背景に湿地開発や産業革命など「地球環境の変化」。

・「コロナ後」は地球への優しさや、配慮のある企業が生き残る。

 

人類の「敵」の正体は何なのか。今回は、インフルエンザウイルスを例に取り上げたい。最もなじみのあるウイルスだが、このウイルスには「長い旅」の物語があり、私は舌を巻いた。

そして、その物語は、私に強烈なメッセージを投げかけた。「コロナ後」の企業は地球に優しくなければならない。「地球と共存」が課題となる。

▲画像 インフルエンザウイルスの電子顕微鏡像 出典:国立感染研究所ホームページ

さて、「長い旅」の話をしよう。インフルエンザウイルスは、前回お伝えしたように目に見ないものだが、さまざまな研究結果で、有力な所在地が浮かび上がっている。シベリアやアラスカなど北極圏だ。そこの凍りついた湖や沼にじっと潜み、ある生き物を待っている。カモなどの渡り鳥だ。渡り鳥は春になって、暖かくなると、繁殖のため、やってくるからだ。

ウイルスにとってはチャンス到来。格好の「乗り物」となる。渡り鳥の体の中に忍び込む。1個のウイルスが、24時間後には100万から数千万個に増えると言われる。ウイルスにとっては「シメシメ」だ。一方、渡り鳥は、こうしたウイルスが自分の体に潜んでいることを知らずに、繁殖する。その間、糞などを通じて、ウイルスは他のカモなどにうつる。

▲写真 米・ワイオミング州の野生動物保護区のカモの群れ。(2019年4月25日 Seedskadee National Wildlife Refuge)出典:flickr; USFWS Mountain-Prairie

冬が近づくと、渡り鳥は、越冬地へ長距離移動する。北極圏から南極圏への長い旅路もある。渡り鳥はその道中、糞を落とす。そこに混じっているのが、ウイルスだ。途中の沼や池では、カモとアヒルが一緒になることも多い。ウイルスはカモからアヒルに感染し、アヒルからさらにニワトリへと感染する。ウイルスは地球規模でまき散らされている。

それでは人にどうやってうつるのか。環境ジャーナリストの石弘之氏によれば、仲介しているのは、豚だ。豚に感染すれば、インフルエンザウイルスは人に感染する型になるという。

さらに、豚に感染しやすい場所として、中国の南部の農村があげられる。そこでは、アヒルやガチョウが豚といっしょに飼われていることが多いからだ。「過去100年間に発生したインフルエンザの世界的流行の多くは、中国南部に起源があるとされる」(石弘之氏、『感染症の世界史』)。やはり、ここでも、中国が原因となっている。

▲写真 ウイルスがニワトリやアヒルから豚に感染すると人にも感染する型になることがあるという。 出典:flickr; Rikki’s Refuge

このインフルエンザウイルスは近年猛威を振るっている。専門家によれば、その背景にあるのが、地球の環境の変化だ。世界の湿地の50%が失われている。人々が湿原を開発しているためだ。カモなどの越冬地が狭くなり、過密になっている。そのため、カモがウイルスに感染する可能性が高まっているという。

さらに、インフルエンザウイルスは、人口密度の高い都市が大好きだ。次々に「乗り物」を変えることが可能だからだ。産業革命以降、都市に人口が密集しているのは、ウイルスにとって、楽園といえよう。

また、もう一つ、重要なポイントがあると、前述の石氏は見ている。それは、畜産革命。世界的に食肉の消費が増加していることだ。世界で飼われている鶏は10年ほどで3割増え、中国が大きなウェートを占めている。また、豚の飼育のうち、60%が中国産だ。(『感染の世界史』P222-P225)。豚や鶏は、ウイルスが感染しやすい「宿主」だ。

湿地の開発、産業革命、そして畜産革命。すべては人類が経済的な豊かさを求め、地球環境にダメージを与えてきた行為である。結局、ウイルスが大暴れしているのは、人間社会に対する復讐なのかもしれない。

そんな状況を踏まえ、私は「コロナ後」の経済について、予想した。「地球と共存」がキーワードになろう。企業は、地球環境を軽視して、利益だけを追求してはいけない。「コロナ後」は、地球への優しさや、配慮のある企業が生き残るだろう。産業革命以降、効率重視でまい進してきた世界経済だが、新型コロナは価値観の転換を求めている。

(続く。「人類と感染症」1011

 

トップ画像:新型コロナウイルス(イメージ)出典:flickr; SBT4NOW


この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家

1964年富山県高岡市生まれ。

富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。


90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。


テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。


その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。


21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。

同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。

同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。

出町譲

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