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.国際  投稿日:2022/3/26

南シナ海で中国軍機墜落か


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・中国人民解放軍の軍用機が墜落し、当局は海域を封鎖して捜索・救助活動に尽力。

・国際情勢の混乱を受け、南シナ海における中国の活動が活発化。

・米海軍、墜落した米戦闘機引き上げに成功、南シナ海の情報戦も活発化している。

 

中国が一方的に海洋権益を主張して周辺各国や欧米諸国の反発を招いている南シナ海で3月上旬に中国人民解放軍の軍用機が墜落し、中国当局が墜落海域を封鎖して捜索・救難活動をしているとみられることが明らかになった。

これは台湾情報当局からの情報を基に一部メディアが伝えたもので、中国当局は南シナ海の海南島に近いトンキン湾の海域を3月初めから15日まで封鎖する理由を「軍事訓練のためである」として内外に説明しているという。

台湾情報当局幹部はこうした情報を国会にあたる立法院の「外交・国家安全委員会」に報告した。情報の詳細は明らかになっていないが、墜落したのはY8型の多用途ターボプロップ4発中型輸送機とみられている。Y8は対潜哨戒機、電子戦機など多用途に使用されていることから墜落機が輸送機だったのか、また中国、台湾双方が詳細な墜落地点と共に説明を避けていることから乗員の被害や事故原因はいかなるものだったか、明らかになっていない。

 ベトナムのEEZと重複、抗議

今回の海南島に近い封鎖海域とされるトンキン湾は、ベトナムの排他的経済水域(EEZ)と一部が重複していることからベトナム政府が中国側に抗議する事態にもなっている。

これに対し中国側は自国の権益が及ぶ海域での軍事訓練、海域封鎖に関して「全く問題ない」との強硬姿勢を貫いているという。

中国は南シナ海の大半を自国の海洋権益が及ぶ九段線」内と一方的に宣言して、マレーシア、ベトナム、ブルネイ、フィリピンとの間で海域内の島嶼や珊瑚礁などの領有権争いを続けており、インドネシアとの間でもEEZの境界線で見解の相違が浮き彫りとなっている。

欧米や日本は南シナ海が国際法に基づく公海であるとして海軍艦艇や航空機による「自由な航行作戦」を続けているが、中国側は一貫してこうした動きに抗議するなど「波高し」の状況が現在も続いている。

 ウクライナ情勢の影響も

特にロシアによるウクライナ軍事侵攻という事態を受けて、国際情勢の混乱に乗じる形で中国軍が南シナ海での活動を活発化させており、欧米を含む各国の出方を見極めようとしているのではないかとの見方も広がっている。

中国にとっては南シナ海の海洋権益と並んで重要な課題である「台湾問題」への解決の糸口を探ることも念頭にあるとされる。「台湾侵攻」のシナリオがロシアによるウクライナ軍事侵攻の進展具合、国際社会の経済制裁や反ロシア世論の形成などを参考にして練り直されているともいわれている。

ロシアへの結束したそして強硬な国際社会の反応、反発を目の当たりにして、中国政府は現時点での「台湾侵攻」を見送ったのではないかとの観測も一部で出ている。

北京でのパラリンピック開催中のウクライナ侵攻は中国指導部にロシアに対する怒りと失望を与えたとさえ言われているのだ。

■ 米最新鋭戦闘機も南シナ海に沈没、回収

南シナ海を巡っては、今年1月24日にフィリピン・ルソン島東方の海域で行動中の米海軍の原子力空母「カールビンソン」に訓練飛行を終えて着艦しようとしていた最新鋭機F35Cが着艦に失敗して炎上、甲板を滑りながら海面に墜落する事故が起きている。(参考記事:米F35機墜落 南シナ海で米中緊張 | F35C自己動画流出 米海軍捜査)

海面に墜落したF35Cからはパイロットが緊急脱出しており、救難ヘリコプターで救出された。一方、空母の乗組員6人が負傷しフィリピン・マニラの病院に搬送されたが命に別状はなかったという。

▲写真 パシフィック航空ショーでの米ステレス戦闘機 F-35C(2021年10月1日、米・カリフォルニア) 出典:Photo by Michael Heiman/Getty Images

機体はその後南シナ海の海底に沈没し、米海軍挙げての捜索・機体回収作戦が始まった。

最新鋭のステルス性能をもつF35Cの機体から軍事機密が中国側に漏れることを恐れ、中国側より先に機体を回収する必要があったからだ。

事故海域は中国の「九段線」内とみられ、中国外務省は「事故に関心はない」と公式には表明していたものの中国が関心を抱いていることは間違いないと見られていた。

米海軍は3月2日に水深3800メートルの海底で機体を発見、最新鋭の深海作業艇などで機体の回収に成功。事故から37日ぶりの快挙となった。

回収作戦には米軍が保有する「CURV21」という遠隔操作艇が投入され、深海で発見した機体にワイヤーを取り付け、それを回収船のロープに繋いで引き上げたという。今後、機体は事故原因特定などのために最寄りの米海軍基地ないし米本土に搬送されて調査が行われるとしている。

今回墜落したとされるY8機は古い機体であることから米海軍などは特に関心を示していないものの、沈没した機体の回収作業の工程や作業艇の運用などに関する一般的な情報収集はしているとみられ、南シナ海の情報戦も活発化している。

トップ写真:中国Y-8型(早期警戒機型) 出典:防衛省統合幕僚監部




この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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