アメリカはいま――内政と外交・ワシントン最新報告 その12 保守とリベラルとの違いとは
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・トランプ政権とバイデン政権の違いから見える保守とリベラル。
・リベラルは弱い人や貧しい人に手厚く、社会福祉。企業に様々な規制を設ける。
・保守は中間層をターゲットに。企業に対する規制緩和や軍事予算の増加。
保守とリベラルの思考の違いについて話しを続けます。
では、実際の政策になるとどこが違ってくるかというと、リベラルは弱い人、貧しい人にとにかく手厚くしなければいけない、と主張する。だから、社会福祉をどんどん増やすのです。そこまではいいのだけれども、社会福祉というのはお金がかかります。このお金がどこから出てくるかというと政府の世話にはならないで黙って働いて税金を納めている中間層、あるいは、もっと上の髙所得層からガッポリ税金を取って貧しいほうに回していく。そうすると、何も政府の受益を得ていない人たちは、なんだ、ということになります。
ですから、トランプという人物がワッと出てきたのも、実は、この辺の中間層、中間よりもちょっと貧しい人、しかし政府の世話にならなければ生きていけないぞといっている人ほどは貧しくないという、この層にトランプ氏が訴えたわけです。というより、その種の層がトランプ氏の政策に期待をかけたのです。
企業に対しても保守とリベルの考え方は違う。
保守は、企業は自由にやってくれ、という。リベラルは規制をする。企業は放っておくとろくなことをしない、という前提があるといえます。
それから、貧富に格差が拡大するからこれをなんとかしなければいけない、これは保守主義よりもリベラルのほうが気にかけている、という感じがします。
この政策の違いのわかりやすい事例は多々あります。
トランプ大統領になったら、それまでのオバマ大統領がやっていた色々なかたちの規制をどんどんなくしたのです。規制緩和、規制撤廃です。リベラルというのは、上のほうの所得の多いところからがっぽり取って下に回す。保守は異なる方法をとる。企業に対する態度の相違も同様です。
トランプ大統領が就任直後にやったことは、企業にかかっている法人税がオバマ政権では35%だったのを一気に21%まで下げるという措置でした。ところがバイデン大統領が出てきて今度は29%と、30%近くまでまた上げた。これはわかりやすい保守とリベラルの違いです。
もう1つ、逆のことで、最低賃金制というのがあります。日本だと、いま1時間1,000円ぐらいでしょうか。アメリカは、トランプ政権のときは7ドル50セントです。そうすると、リベラル派というのは貧しいものの味方といっていますから、最低賃金をとにかく上げろ、上げろというわけです。しかし給料を払っている中小企業は反発をするわけです。バイデン政権になったら、7ドル50セントがいま連邦レベルでは15ドルです。2倍になっている。こういう違いがあるのです。
外交政策に目を転じましょう。保守とリベラルはどこが違うか。
保守側はトランプ氏が唱えた強いアメリカ、アメリカの利害の優先だといえましょう。だから国連なんかどうでもいいよ、という言い方をほぼしています。さらに対外政策の重要な一環としての軍事予算をどんどん増やした。いまバイデン政権はほとんど増やしていない。
バイデン政権の最新の国防予算は3%強ですが、インフレ率が6%、7%となっているので、実質上削減になっています。バイデン政権に限らず、民主党政権は軍事を重視しないという特徴があります。オバマ政権がそうでした。対外政策面で他国との対決や衝突をとにかく避けるという傾向です。
このようにアメリカ外交でも異なる政策が民主、共和両党の間ではぶつかりあう。振り子のように、保守が有利になる。そしてその政策に支障が出れば、こんどはリベラルの方向へと振り子が動く。こんな動きなのです。
しかしアメリカ合衆国という枠組みや土台は崩れません。民主主義である、人権擁護である、法の統治である、三権分立である、主権在民、国民こそが政府のあり方を決めるという、この仕組みというのはまだまだ揺らいでいない。ただその仕組みのなかで、さきほど述べたような価値観の違い、人生観の違いの衝突があり、最近はその衝突の勢いが激しくなっているのです。
(その13につづく。その1、その2、その3、その4、その5、その6、その7、その8,その9,その10,その11)
*この記事は鉄鋼関連企業の関係者の集い「アイアン・クラブ」(日本橋・茅場町の鉄鋼会館内所在)の総会でこの4月中旬に古森義久氏が「アメリカの内政、対中政策――ワシントン最新報告」というタイトルで講演した内容の紹介です。
トップ写真:イベント会場に集まるトランプ大統領の支持者たち(2023年6月1日、アメリカ・アイオワ)
出典:Photo by Scott Olson/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。