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.国際  投稿日:2023/6/14

アメリカはいま――内政と外交・ワシントン最新報告 その17 日本はどうすべきか


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・米の中国軍事研究者は、日米同盟の重要性を一番重く受け止めている。

・彼らは、日本が米国から離れれば中国の支配権に組み込まれると予測。

・米中戦争時、日本が軍事行動をとらなければ日米同盟の終わりだ、とも。

 

アメリカ側での中国に対する厳しい態度は当面は変わらないだろうという、その理由について話しを続けます。

もう1つの要素は、アメリカ側で中国を研究している学者たちの中国への厳しい批判です。昔、ベスト・アンド・ブライテストというアメリカ社会でも一番優秀な人たちを評する言葉がありました。政治学、人文科学でこの種の一番優秀な学者たちがかつて集っていた領域というのはソ連の軍事研究だったのです。

東西冷戦中はアメリカにとってソ連の動向を正確につかむことは致命的な重要性を持っていました。しかしソ連という国は閉鎖社会で、外から見ても軍事情勢がわからないから、それをなんとか解読する。東西冷戦中のアメリカにとってもっとも重要な研究対象分野でした。ソ連の動向のなかでも、とくに軍事面での動きはアメリカにとって警戒を要したのです。その研究分野にベスト・アンド・ブライテストが集まっていたのです。

しかし共産主義のソ連は崩壊しました。そのソ連の軍事研究にかかわっていた優秀な人たちの多くがこんどは中国の軍事研究に移ってきた、という感じなのです。そしてアメリカ側のその種の中国研究の専門家たちがいまの中国政権のあり方への非常に強い警戒や反対を表明しているのです。

私もその種のアメリカ側の中国研究者たちと長年、とつきあってきました。そのなかでも中国の軍事研究に取り組んでいるアメリカ側の識者というのは日本に対してきわめて好意的です。日米同盟の重要性というのを一番重く受け止めているのは中国の軍事を研究している人たちだからだと思います。中国の軍事脅威ということを意識すればするほど、日米同盟の軍事的効用を認識する、ということです。このへんはそう簡単には変わらない。だから、これからも米中対決が続いていくといえます。

最後に日本はどうすべきかということになります。

アメリカ側のいまの見方と期待は、中国に対しては日本もアメリカとほぼ同様に動いてくれるだろう、という期待として総括できるでしょう。台湾有事となると自衛隊はなんだかんだいっても闘ってくれるだろうと思っている人がアメリカ側の識者では多数派です。

ところが日本側の状況を見ると、そうなるかどうかわからないですね。日本側も菅義偉岸田文雄という最近の両総理大臣はアメリカ側の評判はよいといえます。岸田首相もアメリカ側での好感度はいまのところ高いといえます。その理由の根幹は菅、岸田両氏ともアメリカ側に向かっては中国への対応では台湾有事から始まりうる米中間の軍事衝突の可能性への対処も含めて、アメリカと行動をともにすると解釈できる言明をしてきたからです。

つまりいざ中国との衝突などになれば、日本もアメリカと一緒に行動するだろうという印象をアメリカ側に与えているのです。だが本当に日本がそう動くかかどうか、私はわからない。たぶんに不安が残ります。

 

 では日本が米中対立が激化して、もはや衝突という危険水域にまで達したときに、アメリカにも中国にもつかず、中間、あるいは仲介の立場をとるのだ、という動きをみせた場合、どうなるのか。

アメリカ側の中国の対外戦略の専門家たちは、この点の予測は一致しています。もし日本がアメリカから離れれば、やはり中国の支配権に組み込まれるだろうという予測なのです。中国は年来、日本をできることなら隷属させ、中国の支配圏に組み込むことを目標にしてきた、というのです。だから、日米安保にも反対、アメリカ軍よ、アジアから、日本から出て行け、という国策です。

だから、日本としては、やはり、中立とか、アメリカと中国の間に入って仲介役をするというような選択肢は、結局は中国に吸い込まれていってしまう道への第一歩だよということを、複数の、あまり強硬ではない中国研究者も含めて、アメリカ側では述べているのです。

同時に台湾有事で中国が台湾に武力攻撃をかけて、アメリカが軍事介入して、米中戦争となった場合に、もし日本がなにも軍事行動、防衛行動をとらないとなった場合、どうなるのか。

アメリカ側の中国研究者たちは、私の知る範囲内ではみな一致して、その場合は日米同盟の終わりだ、と断言しています。つまりアメリカは日本をもう防衛しなくなる、という意味です。

ワシントンの状況というのはそんな感じです。ご静聴をありがとうございました。

(その18につづく。その1その2その3その4その5その6その7その8その9その10その11その12その13その14その15その16

*この記事は鉄鋼関連企業の関係者の集い「アイアン・クラブ」(日本橋・茅場町の鉄鋼会館内所在)の総会でこの4月中旬に古森義久氏が「アメリカの内政、対中政策――ワシントン最新報告」というタイトルで講演した内容の紹介です。

トップ写真:赤坂迎賓館にて開催されたバイデン大統領の歓迎式典にて 岸田首相と。2022年5月23日、東京都港区 出典:Photo by Eugene Hoshiko – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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